<千年の愉楽>
キミは中上健次の魂に触れたか!難解世界に挑んだ若松孝二の遺作―「路地」に生きた男たちの恍惚と孤独

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(C)若松プロダクション
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   昨年10月17日(2013年)に交通事故で死去した若松孝二監督の遺作で、原作は中上健次が故郷・和歌山を舞台に描いた短編小説だ。紀州の「路地」に生まれ、女たちに愉楽を与えながらも美しいゆえに身を滅ぼしていく血統の「中本」の男たちを、産婆オリュウノオバ(寺島しのぶ)が回想していく。

   中上建次原作の映画には柳町光男監督の『十九歳の地図』(1974)がいまも新鮮味を持ちながら邦画界にきらめいている。この映画は『十九歳の地図』より原作の構造が複雑で神話じみており、映像化の難しさが想像される。ただ、その困難に立ち向かうところが映像作家若松孝二の真骨頂だ。 作風、言動で常に挑戦的で、数々の問題作を世に送り出してきた鬼才は、遺作でもタブーに挑んでいる。

難しい役を演じきった高良健吾、高岡蒼佑らに期待

   舞台の「路地」とは、被差別部落のことをそう表現してきた中上健次の文学的トポスである。 原作は路地に生きる中本の男たちを中心に描いているが、若松は彼らの母親的存在であるオリュウノオバを物語の進行役として置いている。 難解な原作をなるべく多くの人に理解してもらえるようにという工夫だ。『キャタピラー』(2010)でもそうだが、「難しいものこそわかりやすく」という主張にブレはない。この映画が原作のガイドとなればという希望でもあるのだろう。

   活字離れが進み、文学の世界にもデジタル化が押し寄せる中、戦後生まれとして初の芥川賞作家となり、作品を通り越して一人の人間として人々の心を動かし続けてきた作家が残した魂を読めという若松の怒りは、中上建次に対する愛情であり映画に対する愛情であろう。

   この映画を通して中上建次の作品を読む人々が現れてくることが若松の本望であり、この映画の本望であろう。難解な作品だけに役作りは困難だったろうが、中本の男たちを演じた高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太という新世代の実力派役者たちに拍手を送りたい。

川端龍介

おススメ度☆☆☆☆

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