パソコンの遠隔操作や新手のオレオレ詐欺など、巧妙化する犯罪に警察の捜査は十分に対応できていない。キャスターの国谷裕子は「警察の捜査が大きな転機を迎えようとしています。これまでの取り調べによる供述の重視から客観的な証拠重視へ。明治以来続いてきた捜査手法の転換が進められています。その背景には、従来の捜査手法だけでは事件の解決が難しくなっているという現実があります」と話す。
聞き込み・供述で立件難しく検挙率半減
国谷は客観的証拠重視の武器として防犯カメラをあげた。「防犯カメラの設置については、かつてプライバシーの問題と防犯との兼ね合いをどうするかで大きな社会的論議を呼びました」
しかし、1960年代には犯罪検挙率は60%台だったのが、現在はその半分の30%台にまで落ち込んでいる。都市化によってこれまでの聞き込み捜査が難しくなっているからだ。このため、容疑者の供述よりも防犯カメラ映像やDNAなどの客観的証拠によって逮捕・起訴に持ち込む捜査に変わってきている。
たとえば、神奈川県警のひったくり捜査。国谷は「今年に入り神奈川県警管内で起きたひったくり事件は、1月中旬までに2207件。県警のカメラチームが出動して、犯行現場付近の防犯カメラ映像をチェックして、犯行直前に現場周辺をうろつくバイクに乗った男を割り出しました」と伝えた。
取材に当たった清水將裕記者(NHK社会部)は「防犯カメラの設置は全国に広がり、その数は数百万台ともいわれています。警察は街にある防犯カメラの位置を詳細に把握し、データベースも作っています」と報告した。
通信の秘密、プラバシーや人権侵害どう避けるか
ここで、国谷は現在検討されている新たな捜査手法を紹介した。「これまで日本でタブーとされてきましたが、アメリカなどで広く行われている通信傍受です。いわゆる盗聴の導入が検討されています。日本では通信の秘密が憲法で保証されているため、これまで通信傍受は極めて限定的にしか行われてきませんでした」
清水「日本では通信傍受のためには裁判所の許可を取り、電話局でその通信会社担当者の立ち会いの下に行わなければならないという制限が課せられています」
桐蔭横浜大学・河合幹雄教授は「警察の対応が遅れているというより、日本の社会構造が刻々と変化し、これまでの聞き込み捜査が通用しない時代となっています。人目のないところで犯行に及べば大丈夫だろうと考え、逮捕されても否認する例が増えています」と解説する。
国谷「国の審議会で通信傍受についての議論がほぼまとまり、タブーとされてきた手法が数年以内に国内でも広く導入される可能性が出てきましたが…」
河合教授「防犯カメラの時は、その地域の人たちが集まりカメラを設置すべきかどうかの議論があり、地域のコミュニケーションも図られました。しかし、通信傍受は住民への相談なしに行われます。プラバシーや人権侵害をどう避けるか。大きな課題となります」
携帯電話やパソコンのなにげない会話やメールを警察が聞いているなんて時代になるのか。
ナオジン
*NHKクローズアップ現代(2013年3月4日放送「転機の警察捜査」)