「会社に長くいる人間は必ずしも求められている人間とは限らないんですよ」
希望者全員を65歳まで雇用することを義務付けた「改正高年齢者雇用安定法」が4月(2013年)から施行される。東京・新橋で若いサラリーマンを直撃すると、先輩たちへの辛辣な言葉が返ってきた。増える人件費に民間企業はどう対応するのか迫られ、全体の給料を抑えるのか。
経団連試算では賃金総額1・9兆円増加
年金の受給開始年齢が段階的に65歳まで引き上げられ、年金も給料も受け取れない「空白期間」が生まれ、改正法はこれを防ぐ狙いでつくられた。経団連の試算によると、1年間数十万人の退職者全員が会社に残ると、今後5年間で企業の賃金総額は約1.9兆円増加するという。企業はどうやって吸収するかが大きな課題だが、経団連の調査によると「若年者の雇用を抑える」と答えた企業が全体の4割を占めたという。
「朝ズバッ!」は企業の若手人事担当者に集まってもらい直撃した。当然、全員が「人件費が負担増になる」と答え、なかにはこんな意見もあった。「会社としては正直きつい。昇給を全体的になくすとか、ボーナスを上げなくするとか」「(高齢者で)戦線離脱しているような感覚の方だとちょっと」「何をしていいか分からないみたいな人はいてもしょうがない」
足を引っ張られ、企業としての競争力を失いかねないことを懸念する声が多かったが、一方しい現役高齢者側も「『誰でもできることをやらせてあげるんだよ』といわれて働くのは辛い」という。
「使える人材もお荷物も一緒くたの制度」
キャスターの小倉智昭「 (収入の空白部分を)民間企業にある意味で押し付けちゃうのはどうなんですかね」
夏野剛(慶応大特別招聘教授)「社会が用意すべきセイフティーネットの機能を企業に押し付けるのは、企業の負担が大きくなり、競争力をアップすることか成長産業を育てるということと逆行していくことになりかねません。気付かないんですかね。高度成長時代の年功序列とか、定期昇給とかのシステムは抜本的に見直すべきだと思う」
とはいえ、目前に迫っている課題をどう乗り越えるか。高齢社員の豊富なノウハウなり人脈を、縦割りラインの組織の中にどう組み入れ業務に生かしていくか工夫しないと、世代間同士のボヤキ合いが蔓延することになるだけだ。先進国の中で、ある年齢に達したら一律クビという制度を敷いている国は少ない。たしかに能力主義と矛盾する。アメリカなどは「年齢差別」という考え方だ。