昨年12月(2012年)、東京・調布市の小学校で、乳製品アレルギーの5年生の女児が給食に含まれていた粉チーズによるショックで死亡した。学校給食のアレルギー事故は増えているが、この事故はさまざまに学校給食のもつ危うさを浮き彫りにした。
文科省「学校給食法」改正しっぱなしで現場まかせ
問題はメニューの中の「ジャガイモのチヂミ」だった。粉チーズが含まれていたため、チーズ抜きの「除去食」が用意され、トレーの色も別にしたものを調理担当が直接女児に手渡していた。その限りでは万全だった。問題は女児が担任教師にお代わりを求めたときだった。担任の手元には確認リストがあった。栄養士と保護者が作った除去食一覧で、この女児にはチヂミに×印がついていた。しかし担任はこれを確認せず、お代わりを与えてしまった。
30分後、担任が女児の異常に気づく。女児は持病の喘息の吸入器を吸いながら「気持ちが悪い」と訴えた。担任は女児の持ち物から「エピペン」というアレルギーの発作を抑える注射を出して、「打つか?」と聞いたが、女児は「違う、打たないで」と話した。5分後、養護教諭が駆け込んで女児をトイレにおぶっていったが、すでに反応がなかった。校長が駆けつけ、さらに5分後に救急車が到着したが、その場で心肺停止が告げられた。異常を訴えてから20分足らず。女児の摂ったチーズは1グラムにも満たない量だった。
文部科学省は平成20年に学校給食法を改正して、アレルギーのある子にも可能な限り給食を提供するよう学校に求めた。給食も教育のひとつとする食育の視点である。しかし、実際にどうするのかは学校に任された。ガイドラインは作ったが、おおまかなものだった。
調布の事故は給食関係者を動揺させた。直接は担任の不注意だが、システムとして安全を的確に確保するのは難しいとだれもが感じていたからだ。現に、アレルギー事故は平成17年度の160件から23年度は311人に増えている。
大阪・狭山市「小麦・牛乳から米粉・豆乳」に切り替え
藤田保健衛生大の宇理須厚雄教授が給食現場での「ヒヤリ・ハット」の事例を説明した。「調味料を変えたら異物が入っていた」「担任以外に情報が共有されてなかった」など、ヒューマンエラーばかりだ。これをどう克服するか。2つの小学校の試みがあった。
大阪・狭山市の給食センターは5400人分を調理する。ハヤシライスの小麦粉と麦メシを米粉と白米に代えた。クリームシチューの牛乳を豆乳にする。6種類のアレルギーを持つ小学3年の女児のためだ。女児は弁当だったのが、いまは週に3日は級友と同じものを食べている。除去食、代替食はコストも手間もかかるが続けている。
伊勢市の城田小では400人分を3人で作る。すべてのアレルギー児に対応できない。そこで保護者に協力を求めた。6つのアレルギーを持つ6年生の女児は、食べられない給食のときはそれに似たものを母親が弁当に作る。子どもたちも彼女のアレルギーをわかっている。ホットケーキの調理実習では、小麦粉を米粉にしようと提案が出た。みんなで考える。いじめや仲間はずれはない。
キャスターの国谷裕子が「すばらしい食育」といった。宇理須教授も「ともに助け合って生きていくというのは大きな教育です。教師も『ヒヤリ・ハット』を具体的なマニュアルにし、危機に対処する訓練もしてほしい」という。
気になるのはみな対処法だということだ。いま小中高生の3%、33万人が食物アレルギーをもつそうだ。なんでそんなことになったのか。空気を水を食物を人間が蝕んだ結果ではないか。もとを断たないといけないだろう。
ヤンヤン