みんなで働きみんなで経営「共同労働」で雇用守り地域活性化

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   埼玉県深谷市に「香りがいい」と評判の豆腐店がある。地元産の丸大豆と天然のにがりを使った手作りで、働いている10人の主婦は全員が経営者だ。1人5万円の出資証書がその証である。

「自分の店だからね。売れないと給料が出ない」

   中西千恵子さんは20年前に参加した。子育てで短時間の仕事が欲しかった。出資には抵抗もあったが「考え出したら、考えることが面白くなった」という。商品開発から経営方針、給料までみんなで議論して決める。豆腐づくり以外にも、1人暮らしのお年寄りを支える「弁当の宅配サービス」とデイサービスの介護施設も立ち上げた。いまや高齢者福祉の地域拠点のひとつである。グループ全体で150人もの雇用を生み出し、年商3億7000万円になった。

   共同労働というのだそうだ。1970年代からの協同組合、共済組合、NPO、NGOという流れだから、決して新しい発想ではないが、これがいま働き甲斐と持続可能な成長を両立させるものとして注目されている。

経済危機でも解雇者出さなかったスペイン「モンドラゴン協同組合」

   スペイン北部バスク地方に拠点を置く「モンドラゴン協同組合」は、国内に1000店をもつスーパーマーケット、家電、自動車部品、建設など280 以上のグループで組合員8万3000人もいる。一人ひとりが経営権を持つ世界最大の共同労働の組合だ。

   売り上げもスペインで第2位を誇るが、モンドラゴンの評価を高めたのは未曾有の経済危機だった。失業率25%というなかで、モンドラゴンは1 人の解雇者も出さなかったどころか、雇用を2000人も増やした。そう、共同労働の大きな目的のひとつは地域の雇用を守ることなのだ。

   モンドラゴンには製造、流通のほかに金融機関も入っていて、資産の運用・融資も有利に運ぶ。独自の教育機関があって、不採算部門の労働者の再教育・再配置まで行う。経営にあたる人間は労働者が選び、経営方針も議論して納得して進める。給料は「格差は5倍まで」「地域の水準に合わせる」という原則を守る。現経営陣のミケル・レサミスさんは「決定に時間はかかるが、いったん決まれば早い。みんな納得しているから」と話す。

   富沢賢治・一橋大学名誉教授は「市場中心主義だと、企業を大きくして収益を上げることを目指す。その結果、格差が広がった。これに対してILOが打ち出した『ディーセント・ワーク』(働き甲斐のある労働)と『地域の活性化』という考えが注目された」という。

「自分で考えるようになって雇われ意識変わった」

   埼玉にもうひとつあった。ふじみ野市の学童保育クラブだ。8か所に保育員が40人いるが、半数以上が20~30代で、就職に失敗したり非正規雇用を経た人もいる。野口智史さん(28)もそうだった。学生時代は重量挙げの選手だったが、就職に失敗して苦労を重ねた。ここへ来て2年になる。「以前は給料も上がらず愚痴ばっかりだった。ようやくポジティブに考えられるようになった」

   メンバーの女性は「私もそうだったが、雇われ意識はなかなか抜けない。でも、話し合いをしていくうちに変わる」という。野口さんもさまざまにアイデアを出してイベントを組んだりする。子どもたちに囲まれて生き生きとみえる。

   富沢教授は「地域や身の回りのあれこれを取りあげ、実現していく過程で自分が成長するのも効用」という。こうした活動に法人格を与える法律が必要だともいっていた。

   1人ひとりが経営者というのは面白い。日本ではあまりものを考えなくても生きていける。もしみんなが考えるようになったら…今の政治家の大半は吹っ飛ぶだろう。話はもっと面白くなる。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2013年2月7日放送「働くみんなが『経営者』~雇用難の社会を変えられるか~」)

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