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和歌山カレー林真須美「自分が人殺し者と思ったことない」死刑囚の実名肉筆アンケート

   『週刊ポスト』の「死刑囚78人の肉筆」はいい特集である。几帳面な文字、細かい字でビッシリと書かれた文面、自分の思いを一筆書きのように一気に書いているものもある。中には光市母子殺人事件の元少年のように内容を判読しがたいものもあるが、多くは率直に現在の心境や死刑制度に対する考え方を綴っている。これは昨年(2013年)9月から11月にかけて、福島瑞穂社民党党首が法務省に事前に断った上で全死刑囚を対象にアンケートを実施し、133人のうち78人が回答を寄せたものからの抜粋である。

   裁判で死刑が確定すると拘置所での待遇は大きく変わる。塀の外との交流は遮断され、面会や手紙のやり取りは指定された親族などごく一部に限られてしまう。以前は運動や集会などで死刑囚同士が顔を合わせる「集団処遇」も今はなく、生活の大半を独居房で過ごす。福島党首は外部との交流を極端に制限するのは、死刑に対する情報を閉ざすとともに、死刑囚の精神状態にも悪影響を及ぼしかねないと批判している。

   オウム真理教の井上嘉浩死刑囚は「何という恐ろしいとりかえしのつかないことを、しかも救済すると信じてやってしまったのだと、たとえようのない苦悶の波におそわれます。(中略)犯した大罪をどれほど苦しみもだえても、苦しんでいるものまねにすぎないと思い知らされ、ただただとりとめなく悲しみがあふれます」と悔恨の情がうかがえる文章を書いている。連合赤軍事件の坂口弘死刑囚のように、「過去の過ちを克服して社会に貢献せんとしている姿を伝えたい」と前向きな考えを書いている者もいる。

   死刑執行の日に脅える者も多い。「私のいる舎房は今の所は何も有りません。でも独房の鉄のとびらを急にあけたり、しめたります(ママ)ので、鉄のとびらですので大きな音がして、自分の番がきたと思って、脅えるので有ります」(江東恒・堺夫婦殺人事件)

   世の中への怨みを綴る者もいる。「まじめに働いて安心して生活できるなら犯罪なんて起こしたいとは思わないし‥‥ましてや死にたいなんて考えて事件をなんていうことはありません」(松井喜代司・群馬、交際女性ら3人殺人)

   自分に死刑判決を下した裁判官への批判を書いているのもいる。「私を死刑にした裁判官がバスの中で19歳の大学生の女のパンツの中に手を入れ捕まっています。こんな奴らからしてもないことを信用されずに判決されたのかと思うと」(中原澄男・福岡・長崎、元組長ら殺人)

   判決への部分的異議を含めて、78人中46人が再審請求中だという。週刊新潮の「『死刑囚』30人 それぞれの独居房」では、東京拘置所で数年間衛生夫として服役した30代の男性が、彼が見てきた死刑囚の姿を語っている。その中に「再審請求中は死刑執行のないことは暗黙のルール」だという記述があるが、そういうことが再審請求の多さに関係があるのだろうか。

   和歌山毒物カレー事件の林真須美死刑囚は、自分は無実だと訴え続けている。「そんなこと考えたこともない。死刑確定者という法的身分ではあるが、自分では、死刑確定者有実(ママ)人殺し者だとは、全く思い考えたことはない」

   中にはこんなのもある。「世の中には悪い人がいっぱいいる。その一人を私が殺した」(川崎政則・香川祖母・孫姉妹殺人)、「人生は何事においても一発勝負だという事が今頃になってようやく気がつきました。これから残りの人生はオマケの人生として生きていこうと思います」(加賀山領治・大阪2人強盗殺人)、「自民の安倍総裁は改憲論者、この先、世の中どうなるのやら」(早川紀代秀・坂本弁護士一家殺人など)。

   わずかな楽しみを夢に求める者もいる。「楽しみは夢の中で娘と逢って会話すること」(神宮雅晴・京都・大阪連続強盗殺人)

   死刑制度についても聞いている。

「死刑は残虐な刑罰にはならないと云うのであれば、また8割の国民が制度存続を認めていると云うのであれば、刑を公開すれば良い」(小林正人・大阪・愛知・岐阜連続リンチ事件)
「死刑は都合の悪い者は殺してもいいという殺人を肯定する意識を国民に植え付け、殺人や暴力を助長する」(林泰男・地下鉄サリン事件など)
「死刑囚は被害者でもない刑務官によって殺されるのは頭に気(ママ)ます。被害者の立ち会いで執行ならかまいません」(西川正勝・女性4人殺人)

   死後に臓器提供したいのに、そうできない現行制度を批判する者もいる。「私は自分の臓器などを提供するドナー登録をしているのですが、現行の法律では死刑囚の臓器提供はできないようになっていますので、その点を変えていただけたら」(松田幸則・熊本男女強盗殺人)

   ポストはこう結んでいる。

「国家の名の下に人の命を強制的に奪い去る死刑は最高度の権力行使である。だが、この国ではその実態が極度に隠されている。そして、死刑囚たちは単なる凶悪非道なモンスターではない。死刑制度を是とするにせよ、非とするにせよ、本特集のアンケートをじっくり読んで欲しい。議論はそこから始まる」

   重い特集ではあるが、多くの人に読んでほしいものである。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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