「東京物語」の戦死した次男が母親と語り合う山田洋次のメッセージ
人物設定はほぼ小津安二郎監督の『東京物語』にならっている。長男は医者、長女は美容師というのも同じだ。ただ、東京物語では次男は戦死しているが、この映画では健在で、ひとり暮らしのアパートに母親を泊める設定にしている。ここで母と次男が会話するシーンは、東京物語では「かなわなかった親子の会話」として挿入されているのだろう。次男は恋人との出会いからプロポーズに至るまでを事細かに母親に話す。一人前の男が母親にそこまで話すだろうかとも感じたが、東京物語では戦死した「次男・昌二」が昌次に乗り移って語っていると考えると納得がいく。
「東京家族」は「東京物語」のリメイクではないが、根底に流れる世界観は見事なまでに踏襲されている。東京物語との違いや描かれなかった部分を発見するという見方はアリだと思う。60年前には重くのしかかっていた家族や生き方の問題が、現代ではどうなってしまっているのか。東京物語を下敷きにした重厚な人間ドラマを妻夫木聡や蒼井優ら平成の役者が演じ、60年前の名作がもう一つの名作を生んだのは確かだ。それは山田洋二監督にしかできなかったことであろう。
野崎芳史
おススメ度☆☆☆☆