芥川賞作家・田中慎弥が看破「安倍氏は向いていない仕事背負わされている人」
安倍総理関連でおもしろかったのは新潮の「再起した同郷の宰相へ 弱き者汝の名は『安倍晋三』」。山口県生まれの芥川賞作家・田中慎弥は、去年7月(2012年)に下関で開かれたイベントで安倍に会った印象から書き起こしている。何をいっているのさっぱり聞き取れない挨拶の後、関係者に案内された安倍が田中のところへくる。そしてこういった。
「田中さんの本は読んだんですが、難しくてよく分かりませんでした」
田中はそのときの安倍の印象をこう書いている。
「至近距離なのでさすがに声は聞き取れたものの、表情は愛想笑い程度のうつろなもので、これが本当にかつて首相であり、今後の返り咲きも噂されている政治家だろうかと思った(向こうは向こうで、こいつが本当に芥川賞作家か、と思っていたに違いないが)。
かなり無理しているのではないか、本人はほぼ治ったと言っているが、首相辞任の原因となった病気がまだ癒えてないのではないか、とも感じられた。
政治家っぽくない人、向いていない仕事を背負わされている人という印象だった」
山口県人は「自分の意見が一番正しいのだという我の強さ、強情さをもつ人が多い気はする」(田中)そうだが、県民性以上に安倍を強くあらねばいけないと駆り立てているのは血筋だと見ている。
「安倍氏は明らかに、政治家としての自分を強く見せようとしている。強くあろうとしている。なぜか。安倍氏は弱い人間だからだ。強くあろうとするのは弱い証拠だ。だったら、あるがままに生きてゆけばいい。弱いことは、人間として決して悪いことではない。だがここで、血筋の問題が出てくる。
祖父と大叔父と実父が偉大な政治家であり、自分自身も同じ道に入った以上、自分は弱い人間なので先祖ほど大きなことは出来ません、とは口が裂けても言えない。
誰に対して言えないのか。先祖に対してか。国民に対して、あるいは中国や韓国に対してか。違う。自分自身に対してだ。くり返すが、強くないなら強くないままでいい。
首相になった安倍氏は、もはや弱い自分に戻ることは絶対に許されない。
一度失敗しているだけになおさらだ。だが、弱い者はどうあっても弱い。
だからこそ、よけいに強くあろうとする。敵の前でひるむことなく自分を強く見せる必要がある。(中略)
安倍氏が憲法改正や自衛隊の国防軍への移行、集団的自衛権などを主張し、『戦後レジームからの脱却』を掲げているのは、それらが自民党の本来進むべき道であり、特に自主憲法制定が結党以来の悲願でもあるが、そういう党の中にいる安倍氏が、偉大で強い家系に生まれた弱い人間だからだ」
田中は、そんな安倍総理は命を縮める危険な状態にあると危惧し、「その危うさを含めた過剰な強さが、私に『怖い』と感じさせる」というのである。
安倍総理の本質を突いていると思う。