「クリスマス前に、できればカップルでの見るのが望ましい」なんて注意書きをつけたくなるラブストーリーだ。でも、主題は恋愛かというとそうでもない。ちょっと語弊があるかもしれないけれど、個人的には「冴えない男の成長譚」とまとめたい。
タイプライターに打ち込めば思い通りの彼女に変身
主人公のカルヴィンの職業は作家だ。10代のデビュー作でアメリカ文学史に残る大ヒットを記録した「天才」だが、2作目が書けないままもう10年になる。丸眼鏡にひょろりとした長身で、友達がいない。彼女もいない。頻繁に会うのは実の兄とセラピーの担当医師の2人である。人とのコミュニケーションにいささか難があり、自分を持て余している。
そんな彼に奇跡が起こる。夢の中で出会った架空の女性「ルビー・スパークス」が現実に現れたのだ。カルヴィンがタイプライターに「彼女はフランス語がしゃべれる」と打ち込めば、彼女はフランス語がしゃべれるようになり、「機嫌が良くなる」と打ち込めばその通りになる。奔放で気まぐれな彼女とのロマンスに、カルヴィンはすっかり夢中になった。
だが、楽しいばかりではないのが恋愛である。四六時中一緒にいたいと願うカルヴィンに対して、「週に1度は離れましょう」とルビーは提案する。このあたりから、カルヴィンの「才能あふれる内向的な青年」以外の面が見えてくる。自分が辛い時に無条件で支え、尽くしてくれなきゃ何の意味もない。自分に嫌な思いをさせてまで奔放にふるまうなんて、彼女として正気だと思えない。えんえんと続く束縛と「理想の彼女」像の押しつけは、痛いというか怖い。そして、自分から離れようとするルビーに、カルヴィンは禁断の手を使う。再び「ルビー・スパークス」の物語に手を入れ始めたのだ。
ゾーイ・カザンの愛らしさ!目が大きくて気が強そうなのだけど泣き顔たまらない
カルヴィンはルビーが自分の創作物であること、好き勝手に人格を操れることをルビーに伝える。半狂乱になったルビーに、カルヴィンはさらなる書き込みを続ける。ラブストーリーから一転してホラーにすら感じられる展開だ。
その後、「ご主人さま」とその「創作物」がどんな結末を迎えるのかは言わない。ただひとつ言えるのは、誰にでもカルヴィンの要素はあるのだということだ。程度の差はあるだろうけれど、大事な人と理解しあえないときに、その原因を相手にだけ押し付けてはいないか。思い当たる節がひとつもないとしたら、その人は聖人君子か、自分のことを客観視できない人間かのどちらかだ。
ルビーを演じるゾーイ・カザンの愛らしさは特筆もの。目が大きくて、とにかく童顔。気が強そうなのだけれど、泣き顔がたまらない。ぐちゃぐちゃに涙しているときなんか、幼児のような頼りなさと純粋さが漂ってハマり役!と膝を打ちたい愛おしさだった。
師走の忙しさの中で、ちょっぴり気持ちがささくれ立っている方にぜひ。
(ばんぶぅ)
おススメ度☆☆☆☆