火葬して葬式をあげるのに1週間以上、なかには10日間も待たされる事態が各地で起きている。背景にあるのは、高齢化社会で亡くなる人の大幅な増加、火葬場や斎場不足だ。
火葬場不足を解消しようと自治体は建設に取り組もうとするが、地権者や近隣住民が「迷惑施設の最たる場所だ」と認めないのも混乱に拍車をかけている。誰もが最期にはお世話になる別れの場を「最たる迷惑施設」でいいのか、考え直す時期に思える。
首都圏の公営火葬場は受け入れ限界
昨年1年間に亡くなった人は120万人で、10年前に比べ30万人も増加し、2038年には170万人に達すると見られている。そうした中で、亡くなってからお葬式をあげるまでに何日も待たされる遺族は、心の整理がつかないまま体調まで崩すことが多い。
神奈川県相模原市に住む男性は、母親が10月30日(2012年)に肺炎で亡くなった。親族や親しかった近所の人たちで母をおくりたいと葬儀業者に連絡すると、通夜までに9日以上かかるという返事だった。やむを得ず母の亡がらを自宅に安置し付き添うことにしたが、遺体が傷まないようにドライアイスで冷やし、線香を絶やさないようにと付きっきりで気を遣った。自宅を事務所がわりにして小規模な請負工事を仕事にしていたが、受注がキャンセルされるケースも出てきた。5日目になるとさすがに体調を崩してしまった。「精神的に疲れた」という。ようやく母を火葬して葬式をあげることができたのは亡くなって10目だった。
火葬場や斎場を専門に研究している火葬研の武田至代表理事はこう話す。「火葬場の建設に関しては、市町村にすべて任されています。火葬から葬儀、初七日まで安い公営斎場で行いたいというニーズが、とくに首都圏を中心に大都市で高くなっています。
ところが、人口増加に比べて施設の整備が間に合わない。火葬場建設に対している地元の理解を得るのが困難で混乱しているんです。また、早い時間帯や遅い時間は空いていても、正午前後の火葬の希望が多く、火葬待ちに拍車をかけているのが現状です」
それなら朝や夜は料金を安くする制度を導入するなど工夫の余地はありそうだが…。「自治体の中にはすでにかなりの火葬待ちが発生しているところがあります。今のうちに火葬場について考えておかないと将来大変になるでしょう」(武田代表理事)
住民反対で新設頓挫「迷惑施設の最たるものだ」
火葬受け入れが限界にきつつある埼玉県川越市は、火葬場建設候補地を決めて発表した途端、地元からイメージが悪くなると反対の声が上がって立ち往生した。候補地の近くに住む男性は「ここに持ってこないで欲しい。とてもじゃないが容認できないですね。迷惑施設の最たるものですから」と露骨に反対する。これが火葬場に対する一般的な認識だろう。
だが、自治体が新しい試みを実施して成功したところもある。広島県三次市は火葬場候補地を公募にした。一帯を公園として整備することを条件に、9地区の候補地をあげて公募を行ったところ、大田幸地区に決まった。住民が参加した火葬場建設のための検討委員会も立ち上げられ、どんな施設にしたいかの議論が行われ、最終的に桜やモミジを植え、四季折々の自然の中で亡くなった人を見送れる施設にすることで決まった。
その新しい施設が今年4月オープンした。とくに住民の強い要望だった従来の縦1列の焼却炉をやめて、1つずつ個室にして親しい人だけで故人を偲ぶことができる施設にしたのが好評だという。武田代表理事がこう語る。「本来の火葬の意味を考えて、自分たちがどういう空間でお別れしたいのか、あるべき姿を自分のこととして考えないといけない時期にきているんです」
最期の別れの場が迷惑施設の最たるものであっていいのかどうか、問われている。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2012年12月5日放送「お葬式が出せない どうする『葬送の場』」)