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一件落着とはいかなかった「手術料込みで350万円の手切れ金」

   この日から約3か月後に、彼女は体の異変に気づく。妊娠検査薬を買ってきて試すと陽性反応が出た。そのことを藤森に伝えると、「ごめんね」と謝ったという。結局、手術費込みで350万円を彼女に支払ったという。だが、これで一件落着とはいかなかった。

「実は私は先にフライデーの取材も受けていたのです。藤森さんからどんな扱いを受けるかわからなかったので、何らかの『証拠』を持っておきたい。それで編集部に連絡し、私と藤森さんの話し合いの現場写真を撮ってほしいと頼んだのです。
   フライデーの記者さんは、『ぜひ記事にしたい』と意気込んで取材に来てくれました。藤森さんとの話し合いの際は、記者さんからICレコーダを借り、藤森さんとのやり取りを録音し、記者さんに返しました。また、カメラマンがホテルに張り込み、私と藤森さんの出入りを撮っています」

   しかし、フライデーはこれを記事化せず、代わりに先の田中との熱愛写真が掲載されたのだ。売れっ子の藤森のスキャンダルが出ることを恐れた吉本興業が動き、バーターしたと文春は書いている。フライデー側は「載せる載せないは、こちらの自由だと思いますが」と回答しているから、彼女のいい分は事実のようだ。

   文春は「『やらせスクープ』を掲載したのであれば、同誌の信頼がゆらぐ」というが、この見方には少々異議がある。雑誌は売れてなんぼの世界である。売れなければいくら格調高い記事を掲載しても、休刊していくことになりかねない。フライデー編集長は、吉本興業がただ圧力をかけてくるだけだったならば突っぱねていたと私は思うし、そう思いたい。だが、吉本側はおいしい対案を出してきた。それに彼女は一夜の代償として藤森から350万円を受け取っている。それを天秤にかけて編集長は判断を下したのだろうが、それを「けしからん」と一方的に責めることは私にはできない。文春が、そうしたことはこれまで一度もなかったと胸をはっていえるのならば、私は尊敬する。

   さらにいえば、こうした「情報」は必ず他に流れるものである。フライデーがやらなければ文春、文春がやらなければ新潮がやったかもしれない。スキャンダルを完全封じ込めるのは、プロダクションがどんなに圧力をかけても至難の技なのである。とくに現代のようにネットが発達した社会では、特にそうであろう。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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