少子化と高齢化で、近い将来、日本では深刻な労働人口減少が確実視されている。そこで、政府は今年8月(2012年)、「高年齢者雇用安定法」を改正した。60歳の定年を迎えた後、希望する人たちの雇用を65歳まで延長することを企業に義務付けるもので、年金の支給開始年齢の引き上げでできる収入の空白期間を埋めようというねらいだ。
しかし、企業の中には「シルバー世代の雇用はコストアップにつながる」「若年者の雇用に悪影響を与える」と苦慮するところも多い。
企業に義務づけ「65歳定年制」「定年後再雇用」「定年制廃止」
キャスターの国谷裕子は「今回の法改正で、企業には3つの選択肢ができました。1つは65歳定年制の導入、2つめが定年後の再雇用など定年の先延ばし、そして3つめが定年制度そのもの廃止です」と解説する。
いち早く65歳定年制を導入した建築業界大手「大和ハウス」の人事担当役員は、「シニア世代は経験も豊か。知識や人脈も豊富で、企業経営にとってはプラスになる部分が多い」と語る。しかし、働き方も給与体系もそれまでの延長ではない。60歳時に役職から外れ給料は下がり、その分は業績に応じたボーナスでカバーされる。
60歳定年を選択したした高木秀明さんは、仕事は以前と同じだが、人材派遣会社に所属し、毎朝、派遣会社の事務所に顔を出し、その日に必要な文房具などを受領し、それから自分のオフィスへと向かう。高木さんは「社員証も保険証も派遣会社名義です。それまでとは違う人生なのだという意識の切り替えが必要です」と話す。
国谷「定年の延長によって新たな問題が生じています。職場の人間関係で、自分の部下だった社員の部下になるわけですが、それまでの先輩、上司という意識を変えることがなかなか大変なようです」
ある機械メーカーの若手社員は「元上司は定年後の再雇用でした。社内的には自分たちと同じ位置であるのに、会議などでは、お前これをやっておけという場面がしばしばある。意識は昔のまま。これには少々頭が痛い」と本音を漏らした。