福島原発事故後、再稼働に踏み切った関西電力の福井・大飯原発はやはり早過ぎた運転再開だった。原発施設の地下を走る活断層の有無について、国の原子力規制委員会の専門家グループが現地調査を行った結果、「活断層の可能性がある」との指摘が相次いだ。
追加調査で最終的な結論を出すことにしており、「グレーが濃い場合でも原発を止めていただく」(規制委)というが、地元の要望を受けて簡単に再稼働に踏み切った経緯を思うと政府への不信が募る。
大飯原発の他にも、全国にある原発の地下には活断層と思われる断層がある。これが動けば福島原発事故の二の舞になる。規制委がどう判断し対処するかが問われる問題だ。
関西電力・大飯原発「証拠スケッチ」提出せず
活断層は12~13万年前以降に動いた痕跡があり、今後も動く可能性のある断層のことをいう。当然ながら、国の安全指針で活断層の上には原発の重要施設の設置を認めていない。
大飯原発でも今月2日(2012年11月)に規制委の専門家グループが現地調査を行った。地面を掘ってF―6と呼ばれる断層地層の断面を調べるトレンチ調査で、関電が掘った原子炉に近い山側と原子炉から離れた海側の2か所のトレンチを結ぶ線上には、緊急時に原子炉を海水で冷やすための配管が通っている。
調査の結果、山側のトレンチでは断層がかつて動いた形跡が確認された。問題はいつ動いたか。断層が動くと岩石同士が摩擦しあって細かく砕け、断層の間に粘土ができる。断層が長い間動かないとこの粘土は固まってくる。
関電は「粘土はかたく、動いたのは12~13万年前より古く活断層とは見られない」と主張しているが、専門家グループによる現地調査では「粘土はそれほどかたくない」と、関電とは異なる意見が相次いだ。メンバーの一人、渡辺満久・東洋大教授は「粘土は非常に柔らかいしツルツル滑りそうだし、あれだけ見てもギュッと潰されたら動くのではないか」と見る。
また、原子炉から離れた海側のトレンチでも活断層の可能性を示す「地層のズレ」が発見された。このズレについて、関電は「地滑り」が原因としていて、岡田篤正・立命館大教授も「地滑りに見える」としたが、他のメンバーからは「活断層と見た」(渡辺教授)、「あの構造から地滑りで説明するのはおかしい」(廣内大助・信州大准教授)など反対意見が相次いだ。
現地調査をもとに行われた評価会合では、関電が行った過去の調査の信憑性について疑問視する声も噴出した。関電は原子炉に近いトレンチで断層を確認したものの、その延長線上の海側のトレンチとの間はボーリング調査を行っただけで、「F―6は見つからなかった」と結論付け、断層は配管付近で途切れていると主張してきた。
専門家グループは「調査がずさんだ」という。40年近く断層調査を行ってきた金折裕司・山口大教授も「断層は一つの面がずっと繋がっているわけではないし直線的でもない。飛んだり歪曲したりする」と指摘する。
関電には大飯原発3、4号機を建設する際に行ったトレンチ調査の地層断面スケッチが残っている。そこにはF―6の境に、動いた形跡のある断層があり、「黄褐色の粘土が付着」という記述があった。原子力安全・保安院は今年7月、大飯原発を再稼働する直前にこのスケッチと当時のトレンチの写真を提出するように関電に求めたが、提出されたのはブルーシートで覆われた写真だけだった。その翌日、再稼働が始まった。
当時の保安院も現在の規制委も、電力会社に資料を提出する法的根拠はなく行政指導だけだという。これで「(再稼働に当たって)安全は私が責任を持つ」(野田首相)とよくも言えたものだ。
原子力規制庁職員の8割が元保安院
キャスターの国谷裕子「今後、どんな追加調査が行われるのでしょうか」
NHK科学文化部・岡田玄記者「関電が地滑りと主張する海側のトレンチの部分をさらに子細に調べるほか、3号機の近くの山側に新たに300メートルにわたってトレンチ調査を行うことになっています」
国谷「新たな調査で判断が付くと思われますか」
東北大災害科学国際研究所の遠田晋次教授は「活断層かどうかの重要な調査は3号機近くの新たなトレンチ調査で判断されます。地層のずれが地滑りだと局所的になり、延々と続くことは考えにくい」という。
規制委は法的整備など権限の強化を図ることにしている。また、現在は原子力規制庁職員の8割が旧保安院の職員で頼りにならず、電力会社の調査の不備を見抜く人材の養成や確保も行うという。
頼りの規制委の事務局である規制庁が、電力会社のかつてのようなアノ手コノ手の懐柔策に乗らず、どこまで中立性を保ち抗し得るか。出だしから手腕が問われている。
モンブラン