万里の長城ツアーの日本人3人が大雪に見舞われて命を落とした。初めての企画なのに下見すらしていないなど、ツアー会社のずさんさがいろいろ出てきている。この会社、3年前に北海道大雪山系で8人の死者を出していた。
ツアーの参加者は4人で、これに日本から中国人添乗員が同行し、現地ガイドと一行は6人だった。全7日の日程の6日目で、14㌔を5時間かけて歩く予定だった。しかし、現地は3日午後(2012年11月)から雪、それも50年ぶりという大雪だ。軽装ではとても身を守れない。
亡くなったのは、埼玉の渡辺邦子さん(68)、 東京の小川陽子さん(62)、福岡の柳井俊一郎さん(76)と中高齢者で、助かったひとりも59歳だった。いずれも山歩きに慣れた人たちという。前夜の宿の人は「ガイドが雨になる、寒いといったが、みなレインコートがあるから出掛けた」と話している。
「冬山用防寒着」準備の指示なし、参加者は山歩きに慣れたベテラン
万里の長城100㌔を7日間で歩くこのツアーは、1日に十数キロを数時間歩き、夜は里に下りて宿泊し、車での移動も組み合わせてあった。それ自体はなかなかのアイデアだ。「一般の観光客が行かないところ」が殺し文句にもなっていた。一行も前日までは多いに満足していただろう。
ツアーを企画した「アミューズトラベル」は危険だという意識があまりなかったように見える。本社は下見もせず、緊急連絡手段は国際携帯電話だが、遭難現場付近は通じていない。中国人添乗員はつけたが、現地のガイドがだれであるかもわからない。旅行中も事故がなければ連絡はこない――などなど。とくに服装のアドバイスは、「『防寒具』天気が崩れると日中でも冷え込みます。防寒具は必需品です。歩行中はジャケットで、山小屋ではコンパクトダウンかフリースが最適。雨の日は雨具」というものだった。雪は想定されていない。
要するに、穏やかな秋山の装備である。山登りに慣れた人たちだったなのだから、「冬山用」とすれば全く違ったはずである。会社も参加者もガイドも、だれひとり冬がやってくると思ってもいなかった。そういうことだ。
3年前の大雪山死亡者にまだツアーパンフ送りつけるずさん管理
司会の小倉智昭「3年前の事故で亡くなった方のところへ、ツアーのパンフを送ってくる会社だという」
山登りもするという宋美玄(産婦人科医)は「ヒマラヤへ行く時などは、体調とか装備とか旅行社の厳しいチェックがある。装備だって、ほとんどは使わないが持って行く。北海道のときもそうだが、山登りでは想定外はあってはいけないんです」と眉をしかめる。
竹田圭吾(ニューズウィーク日本版編集主幹)「登山でもトレッキングでも、基本的には自己責任です。その責任の一部を旅行社にあずけてツアーが成り立っているが、どこまでどう責任をとるのかという点が会社も参加者も意識があいまいだったと思う。ここを整理しないとまた起こる」
岸本哲也はリポーター「前日まではよかった。当日の朝、現地ガイドがゴーの判断をした。ここです」
小倉「海外で、しかも日程に予備日がないわけだから、ひとりだけ怖いから行かないと言いにくい」
宋「せっかく中国まで来たからといっても、引き返す勇気が必要ですよ」
小倉「人が行ったことがないところへ行きたい人もいるし、私みたいに、そんなところ行きたくないというのもいる」