尼崎連続怪死事件で主犯格の角田美代子被告(64)を殺人罪で立件することは可能か、捜査はいま大きな局面を迎えている。美代子が被告になっているのは傷害致死、死体遺棄容疑だけだ。
兵庫県警は26日(2012年10月)から28日にかけて、尼崎の民家から死体で発見された男女3人について、美代子と親族らが殺害した疑いで自宅などを家宅捜査した。3人は自宅バルコニーの監禁小屋に閉じ込めていたという関係者の証言があるが、証拠隠滅を図るため逮捕される前に美代子の指示で撤去されたらしい。
「コンクリ詰め遺体」でも殺意否認で傷害致死罪
自ら手を下さず、狡猾な美代子には殺人に結び付ける証拠が乏しく、さらに次のような経緯も殺人罪での立件を難しくしているという。たとえば、ドラム缶にコンクリート詰めされた女性(66)の事件で、兵庫県警は美代子をいったんは死体遺棄容疑で逮捕したが、その後の捜査で殺人と監禁容疑に切り替え再逮捕した。ところが、美代子は「全く身に覚えがない」と否認、暴行を強要された家族も「殺すつもりはなかった」と殺意を否認したため、神戸地検は殺人罪を見送り傷害致死罪で起訴した。
元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「コンクリ詰め事件の判断が、そのあと発覚した事件のネックとなる可能性がある」と指摘する。神戸地検がその後の事件について殺意があるとした場合、公判で弁護側が整合性に欠けると主張する可能性が出てくるというのである。コメンテーターの菅野朋子弁護士も「殺意は主観なので、どうしても本人の供述がないと認定しにくい」という。しかも、尼崎の民家床下で発見された3人については、死体遺棄容疑の時効(3年)が成立している可能性があり、殺人容疑でないと立件できない怖れがある。