自分の言っていることがどこまで信用されると思っているのか。不思議な人物である。iPS細胞を使った世界で初めての移植手術を実施したという森口尚史氏(48)は、きのう15日(2012年10月)、アメリカから帰国し特任研究員を務める東京大学付属病院で事情聴取を受けた。実施したという手術すべてに疑問があるが、きのうの段階でも「(当初実施したといった6例のうち5例は行っていないが)1例は実施した」という説明は変えていない。しかし、証明するものが何もない。いったい、どういうつもりなのか。
過去論文の検査や経歴、手術記録チェックすればたちまちバレたはずが…
東大病院による聴取は3時間続いた。昨年(2011年)6月2日、ボストン市内の病院で行ったという手術について、「2011年春ごろ、見ず知らずの方からメールが来て、私が作ったiPS細胞が保管されていることを知り、自分の患者に使いたいという申し込みがあった」と説明したそうだ。だが、「証明できる人が、こういう騒動になったために出てきてくれない。社会通念上、証拠が出せない以上、やったといえないことが残念だ」と釈明したという。
会見した東大病院の齊藤延人副院長は、「一部つじつまが合わないと思われる部分もあると私も感じています。(1件手術したということについて)素直にそうだなとは思っていない」と語ったが、当たり前だろう。
コメンテーターのロバート・キャンベル(東大教授)は「医療機関で手術すれば、記録が資料として残っている。証明する人が出てくるとか、来ないとかの話ではありません。それを事実確認せずに、日本の新聞社が報道したことが発端。どうしてこういうことになったのか」と強い疑問を呈する。
東大病院は森口をどうして特任研究員として採用したのか。キャンベルは「彼の履歴書をどれぐらい洗い直して確認したのか。正規採用の場合はしらみつぶしに調べます。ここからは推測ですが、特任研究員の場合は研究プロジェクトごとの雇用なので、過去の論文の検査や経歴に詐称があるのかないのかも含めてどこまでの調査だったのか…」
精神科医の香山リカ「これまでは、そんなことする人がいるとは思っていない。論文の共同執筆者まで調べるとなると膨大な作業になる」
肩書き、動画、巧みな弁舌に事実確認お座なり
キャスターのテリー伊藤「哀れな男だ。自分で納得できない人生を送っていたのだろう。山中伸弥教授みたいになりたいと思って、あんなことを発表して、自分の中でどんどん妄想が膨らみ、マスコミに注目されて興奮していった。怒るというより哀れですよ。悲しいね。論じるに値しないような男なのかと思います」
司会の加藤浩次「そこを報道してしまった責任もある」。その通りで、うそをついた男も悪いが、やすやすと乗せられた報道機関にも責任がある。ノーベル賞のタイミング、動画など小道具を取りそろえ、一応の知識もあり弁舌も巧みだったのかも知れないが、最初の段階でハーバード大客員講師という肩書や移植治療を行ったというマサチューセッツ総合病院で事実を確認しておれば、こんな騒ぎにはならなかっただろう。