テレビ、スマホ、パソコンと、液晶はいまや市場規模8兆円だが、かつて「液晶王国」だった日本は、トップのシャープが8割のシェアを誇った。それが昨年は10%である。上位は韓国、台湾企業が占めた。何が起こったのか。
「液晶王国」日本が落ちた「自前主義の罠」
「国内市場に頼り過ぎた」とシャープはいう。高画質の「亀山モデル」で国内を制し、世界で唯一、60型を大量生産できる堺工場に4300億円を投じ、3年前稼働したところで、世界的な景気の低迷にぶつかった。大型テレビは売れず、今年1月の工場稼働率は3割まで落ちた。この間に、韓国、台湾企業が新興国市場を占めていた。「われわれの技術力の価値が市場の価値だと思っていた」
再建計画では、トップだった太陽電池など不採算事業からの撤退、1万人以上のリストラをあげる。台湾のホンハイ精密工業との提携を交渉中だ。ホンハイはアップルはじめ世界中からの請け負いで売り上げ9兆円、シャープの3倍である。
しかし、8月末(2012年)に来日した郭台銘会長は、突然トップ会談をキャンセルして帰国してしまった。シャープの予想外の業績悪化と株価の低落に加え、郭会長が経営参加を求めたため折り合いがつかなかった。
亀山工場ではいま10年をかけた最先端パネルの生産準備中だ。フルハイビジョンよりはるかに細密で、消費電力は5分の1。スマホ、タブレット業界が注目する。ホンハイが目をつけたのはこれだった。しかし、シャープとしても、建て直しの切り札となる技術だけに、簡単には渡せない。以後交渉は動いていない。
NHK大阪の小坂隆治記者は「自前主義が限界にぶつかった」という。部品から一貫して自社で作る日本企業に共通するカベだという。「自前主義は技術の囲い込みはできるが、投資の負担が大きく、製品が売れないと打撃が大きい。技術で勝っても、ビジネスで負ける」という。
スマホ、タブレット向け中小型で生き残り掛ける「ジャパンディスプレイ」
早大ビジネススクールの遠藤功教授は「日本企業の弱みが出てしまった」という。「スピード感の違いです。韓国、台湾はトップダウンで決断も実行も早い。日本はサラリーマン経営で遅い。かつて、半導体でも起こったことです」
同じ液晶でも、スマホやタブレット用の中小型となると勢力図が変わる。1、2位を日本メーカーが占める。1位の「ジャパンディスプレイ」は今年4月に日立、東芝、ソニーが共同出資して作った液晶専門の部品メーカーである。3社の液晶部門の統合でシャープを抜いてシェアトップに躍り出た。
3社の高い技術力を生かし、スマホでフルハイビジョン並の画質を達成した製品を10月から量産を始める。売り上げ4500億円を目指し、初年度から黒字をもくろむ。大塚周一社長は「技術は常に追いかけられている。スピード感が大事だ」という。規模の拡大も急ぎ、300億円でパナソニックの工場を買い取った。大型液晶の工場を中小型用に作り替え、客のニーズを先取りした高精細パネルで王国の復活を目指している。「成功しなきゃいけない。しないとすべてがなくなる」と大塚社長はいう。
はたして見通しはどうか。遠藤教授は「意思決定のスピードの次は実行のスピード。技術の最先端の優位を持続的に保てるかどうか。さらに、いまはオールジャパンだが、オールアジアという発想もありうる。韓国、台湾をパートナーとする戦略だ」という。
つまり、シャープはすでにその入り口にいるということか。あるいはアップルのような高度な要求に応える技術力で生きるか。どっちにしても、 半導体の二の舞いだけは御免被る。ビジネスでも勝ってもらいたいものだ。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2012年10月4日放送「復活なるか液晶王国ニッポン」