東京の片隅で小料理屋を営んでいた貫也(阿部サダヲ)と里子(松たか子)の夫婦は、不注意で火事を出し店を失ってしまう。「再び自分たちの店を持つ」という夢をかなえるため、二人が計画したのが結婚詐欺による再建資金の調達だった。里子が女たちの心の隙間を見つけ、貫也が言葉巧みにだましていく。最初はうまくいっていた夢売り(結婚詐欺)だったが、うまくいけばいくほど二人の間に溝が広がり、ついには思いもよらない事態になっていく。
「店を再建したい」夫婦で納得した結婚詐欺だったはずが…
松たか子は「告白」(2010年)で復讐の鬼と化した主人公を演じたあたりから、ぐんと演技の幅を広げた感がある。そんな松の怪演に支えられた映画だった。夫に女の所へ行くように勧めていた里子も、度重なるとに孤独感にむしばまれていく。しかし、「弱音を吐かずどんな時も前向きな妻」という顔を夫に見せてきた彼女は、貫也に素直に不満をぶちまけることができない。文句一つ言わず静かに耐える。
そのストレスは尋常ではなく、反動は大きい。夫のいない間の自慰行為、トイレから出て淡々と下着に生理用品を取り付ける瞬間、夫に殺意を感じるのか衝動的に包丁をにぎりしめる場面など、「エッ、こんな演技を松たか子が!」というシーンの数々に、とにかく衝撃を受けた。「告白」の狂気のような怖さとはまったく別の、艶めかしささえ感じさせる恐怖だ。松たか子という女優の底力をまたも思い知らされた。