賛否両論あるのは知っている。むしろ否の声の方が大きく聞こえることすらある。それでも私は前田敦子が好きだ。だから、たまらない番組だった。日曜夕方の歌番組「MUSIC JAPAN」のスペシャルバージョンで、AKB48卒業直後のあっちゃんのロングインタビューと過去映像、それと新たに収録したライブ映像を30分に収めている。若い女の子のインタビューは、画の動きがないのと話題を膨らませられないあっちこっちトークになりがちなので、長く見るのが辛い。そのあたりをよく考慮して、インタビュー・過去映像・インタビュー・収録曲のサンドイッチ型のつくりがうれしい。
「媚びたくない。万人うけしなくていい」潔癖さが愛しい
学校を思わせるような明るい室内でのインタビューでは、まず白シャツを一番上まできちっと止めた衣装に「大人になったなぁ」とため息をついた。白シャツでバストアップだと制服にしか見えなかった彼女が、ちゃんと大人のお姉さんに見える。けれど、光を受けてツヤツヤ光る肌と涼しげな目元にはあどけなさも漂う。大人と子供の間の不思議な美しさで、不調が目立った近年に対して、悪い憑き物が落ちたというくらい可愛い。
インタビューも見ごたえがあった。16~17歳のときに「万人ウケってなんだろう」と悩み、でも「媚びるのは違う(自分のスタイルではない)」と決意してしまう潔癖さが愛しい。アイドルなのだから、元気を与えるため好いてもらうために全力を尽くすことは当然というファンの中に、前田を傲慢と言う声があるのもわかる。けれどその分、「私、これ以上悪い部分というか、裏だけはないので」の言葉がリアルだ。「前田って性格悪そう」って意見は結構聞くけど、本当に性格の悪い女の子なら、そんな所業しません。自分にとって、それがどれだけマイナスかくらい計算できるから。
伏し目がちで踊っていたと思ったら次の瞬間ガチ笑顔―あっちゃんってよく出来てる
加えてライブ映像を見直すと、なぜ前田敦子に惹かれるのかが見えてきた。多分、彼女の笑顔は「誰かを楽しませるための笑顔」ではなく、「本当に楽しいときの笑顔」なのだと思う。キメ顔や魅せる用の笑顔が氾濫する中で、くしゃっとしたガチ笑顔はとにかく目立つ。
動きがせわしなくないのも、笑顔の効力に一役買っている。肘、膝、腰、首、肩の5点が常にシェイクされている子も多い中、意識的なのか無意識なのか、動きが抑え気味で表情が際立つ。伏し目がち、ガチ笑顔、照れ笑顔、流し目、見下す視線、睨み、いたずら笑顔と、バリエーションは多い。
後列の子はいつ抜かれるかわからない。だから最初から最後までキメ顔はマストだ。彼女の場合はいつでも抜かれているから、同じ表情ではいられない。こんなに伏し目がちに踊るアイドルいないよなぁとまじまじ見つめると、次の瞬間のガチ笑顔に悩殺される。うーん、前田敦子ってよくできている。
「私が成功したらグループにプラスだとは思うんですけど、私が失敗してもそれほどマイナスにはならないと思うんですよね。私が消えるだけ」
最後に語った期待値の低さを受け入れた発言は、持ち前の自信のなさから来るのか。それとも意外なクレバーさから来るのか。いずれにせよ、気になる存在です、前田敦子。(NHK9月16日深夜0時10分)
(ばんぶぅ)