東日本大震災から1年半がたった。被災地では復興に向けた取り組みが始まっているが爪痕はまだ深い。キャスターの国谷裕子は被害が甚大だった宮城県気仙沼から「震災とその直後に起きた大津波は住宅や工場の土台だけを残し、すべてを押し流してしまいました。そして1年半経った今も気仙沼では荒涼とした風景が広がっています。いまだに2800人以上の人の行方が分かっていません」と伝えた。
ベテランOBが作成しこれまで32人判明
6歳の娘が津波にのみ込まれたと思われる母・佐々木奈央さんは、「今でもこの手に娘の腕や手、洋服を着せたときの感触が残っている。忘れようとしても忘れることはで来ません」と手を見つめながら語る。
最も行方不明者の多い宮城県では、県警本部が去年11月(2011年)に特別捜査班を組織し、専従の17人の捜査員が必死の作業を続けている。新しい方法として採用したのが似顔絵捜査だ。発見された身元不明の遺体の写真をもとに似顔絵で生前の顔を復元し、その似顔絵をインターネットやマスコミを通じて公開して情報提供を呼びかけている。86人の身元不明のうち、似顔絵公開でこれまでに32人の身元が判明した。
似顔絵の制作に当たっているのは現職時代に凶悪犯の似顔絵作りを担当した元警察官だ。OBは「身元不明の遺体を1日でも早く家族のもとに帰らせてあげたいと、この仕事を引き受けました」と話す。
しかし、似顔絵作りは簡単ではない。一番手こずったのが水中から収容された歯がない遺体だ。OBは「長い間水中に入っていると歯が抜け、顎の筋肉が緩んで顔つきが変わってしまうんです。それをどう復元するかが難しい」と説明する。なんとか似顔絵を作成して公開すると、数日後に女性から警察に「もしかしたら私の母かもしれない」という連絡があった。遺体写真で確認すると「やはり、私の母です」。そして、「この似顔絵を描いた方はどなたでしょうか。この似顔絵のおかげで母にたどり着くことができました。本当にありがとうございますとお伝え下さい」と深々と頭を下げていったという。
遺族の複雑な心境「手掛かりないとホッとします。どこかに生きてるかもしれない」
「クローズアップ現代」は再び佐々木さんの姿を追った。往復数時間をかけて娘の手掛かりを求めて気仙沼の浜を歩く佐々木さん。「なんの手掛かりもないと安心します。娘がどこかで生きているのではとホッとして、家路につきます」と語る一方で、「私が天に昇らなければ娘に会えないことはわかっています。だから、私がそこに行くまでそこで待っていてと語りかけています」と複雑な胸中を話した。
津波で姉を失ったノンフィクションライターの生島淳さんがゲスト出演してこう語った。「姉が津波に襲われたと聞いた後、必死で姉を探しました。いま思えば、その探し方は暴走気味だった。でも、見つけることはできませんでした。それで、姉の葬式を出し、その後に姉が発見され少しホッとしました。
県警が懸命に捜査をしてくれています。多少の安心感があるが、マスコミの震災問題は復興へと移っている。今も行方知れずになった家族の消息を求めて捜している家族がいるのだということを、忘れないで欲しいですね」
国谷は「残された家族が心の平安を得るのはいつの日になるのでしょうか」と結んだ。
ナオジン
*NHKクローズアップ現代(2012年9月10日放送「震災不明者を家族のもとへ~密着『似顔絵』捜査~」