ロケ地・富山刑務所の完成披露試写会で涙した健さん
杉野も妻を亡くし、帰るべき場所を求めて旅とも放浪ともつかない暮らしをしている。草彅剛演じる田宮は妻と子どもを残して弁当の出張販売で全国を回りながらも、居場所を探している。佐藤浩市演じる田宮の部下・南原もそんな一人だ。みんな明るく気立て良く振る舞いながら、心に満たされない思いを抱え、自分の居場所を迷いながら探している。目的と帰る場所を見つけて、放浪者から旅人になるべくもがいているのだ。倉科もそんな人々とのふれあいの中で、妻亡き世界での新たな居場所を見つけようともがく。
映画公開前、ロケ地となった富山刑務所で完成披露試写会を行った際、高倉健は受刑者に向けて「早く『あなた』にとっての大切な人のところへ帰ってあげてください」と語り、受刑者と共に涙したという。
人生は旅であるというが、旅とは何かという問いにまで踏み込んだ映画は少ない。閉塞感漂う現代を生きる人々の苦悩を、美しい日本の風景の中に切り取ることで、それぞれの帰る場所をやさしく提示してくれる。幅広い世代に見て欲しい映画だ。
野崎芳史
おススメ度☆☆☆☆