例年、先の戦争の終戦前後になると、戦争に関する題材がクローズアップ現代にも見られるものだ。今年はロンドン五輪などの影響で番組が長らく休止していたこともあり、やや時季外れとなったが、「特攻隊員の遺書」なるものが登場した。
5000人を越える犠牲者を出したという特攻作戦。その隊員が家族に出した1000通もの遺書の手紙が、海上自衛隊の倉庫の奥深くに忘れられたまま置かれていたのが、最近見つかったという。番組では、それらを読み上げ、御国のために尽くした英霊を顕彰――することは早々に切り上げ、ちょっとしたミステリーに仕立てあげた。
背後に特攻作戦指揮の元海軍中将や参謀大佐
これらの遺書は、戦後間もなく、ときに特務機関の一員を名乗る謎の男が遺族のもとを弔問などを理由に訪れ、いろいろ近況の聞き取りをするとともに集めて行ったという。しかしいったい誰が何のために?
男の訪問を受けたある遺族は、メモに男の氏名等を残していた。男は自分の訪問を口外しないよう命じていたという。番組が調べると、その正体はただの(?)民間人。しかし5年間で40道府県、2000の遺族をほとんど1人で回って歩いていたという。情報や資金を提供していたのは、戦後、海軍省を引き継いだ組織の第二復員省で、男はなかでも特攻作戦の指揮官であった元海軍中将や参謀だった大佐と密に連絡を取っていたという。
都合の悪い情報隠し、狙いは海軍復活
結局、番組はこの遺族調査や遺書回収の目的等がわかる資料・情報は発見できなかったが、元大佐はその後、特攻隊を正当化するような書物を著しており、集められた遺書7通がその著書に引用されていたという。
当時、第二復員省は海軍復活の夢を見ていたそうで、そうしたことからも、遺書回収の目的は都合の悪い情報を隠蔽したり、あるいは特攻隊を正当化することではなかろうかと想像される。
国谷裕子キャスターもそんな疑いを口にしていたが、スタジオゲストで海軍に詳しい戸髙一成・呉市海事歴史科学館館長は「『正当化』というと気の毒な気がする。戦時中から外道の作戦と言われた特攻をやったことへの反省や、亡くなった方への慰霊の気持ちがあった上で、行われた事業ではないか」などと話していた。
ボンド柳生
NHKクローズアップ現代(2012年8月28日放送「なぜ遺書は集められたのか~特攻 謎の遺族調査~」