奈落の底は血の海だった。東京・国立劇場で27日(2012年8月)、公演中に舞台セリから転落した歌舞伎役者・市川染五郎(39)の事故直後の生々しい状況についてきのう29日、父親の松本幸四郎(70)が初めて明らかにした。幸四郎は一瞬、息子の死を覚悟したという。病院で会った染五郎は「元気でした。話もしました。お父さんだよと言ったら、すみませんと言っていました」と話す。
額のわきや鼻や口からも出血。意識ないまま手足で踊り
染五郎の半生を舞踊で表現するという舞台には、幸四郎も特別出演していた。サプライズで登場した幸四郎が花道から消え、共演の尾上菊之丞(36)もいなくなり、舞台では染五郎1人が踊っていた。と、幸四郎はドシーンというものすごい音を聞いた。駆け付けると、染五郎は菊之丞に抱えられ、無意識のうちに手足で踊っていてが、額のわきや鼻からも口からも血を流していた。そばに染五郎が持っていた鼓が真二つに割れていた。「その状況を見て覚悟を決めました」と語る。妻や母も駆け付けたが、取り乱すことなく、状況をかみしめるように見つめていたという。
けがは右半身と右側頭部打撲といわれたが、右手首も骨折していた。頭を打ったことの影響も心配されたが、脳波の検査では異常なかった。「客席にお医者さんが2人いらっしゃり、付き添っていただきました。多くの方の励ましをいただき、芸を通してみなさんとつながっていると思い、感謝の気持ちでいっぱいです。みなさん方の力が奇跡を起こしてくれました」と話す。
鼓がクッションになって真っ二つ
スタジオには客席で一部始終を目撃した芸能リポーターの武藤まき子が出演した。「お母様に聞いたのですが、染五郎さんは鼓が好きでよく稽古をなさっていたそうです。今回、その鼓がクッションになって守ってくれたとおっしゃっていました」と話す。 舞台のセリの状況については、共演の菊之丞とセリが開いているから気をつけようねと何度も確認し合っていたという。この点について、幸四郎は「染五郎は舞台に立つと、踊りや歌舞伎に見境がなくなる。無我夢中の中で起きた事故です。舞台機構や裏方さんには何の落ち度もありません」と語った。
武藤「幸四郎さんは奇跡、感謝、奇跡は起きるのではなく起こすものと繰り返しおっしゃっていましたね」
芸能デスクの前田忠明「スタッフには何の落ち度もないといっておられましたが、さすが幸四郎さんと思いました」
武藤が家族に聞いたところでは、染五郎の意識ははっきりしており、次の芝居のことなどを心配しているが、退院のめどがつくのはもう少し先になりそうだという。