<おおかみこどもの雨と雪>『時をかける少女』や『サマーウォーズ』で注目されている細田守監督の最新作アニメーションだ。主演の花の声は宮崎あおいが担当し、大沢たかおがその夫の狼男を演じている。他にも菅原文太、谷村美月、染谷将太などが声を担当し、実写での演技とは別の魅力を存分に発揮している。
大学生の花は同じ大学で講義を受けていた男(大沢たかお)に恋をする。互いに惹かれあうが、男は自分が狼男であることを告白し、実際に狼に変身してみせる。花は戸惑いながらもそれを受け入れ、2人の距離はさらに縮まりやがて子どもを授かった。雨(黒木華)と雪(西井幸人)と名づけられた姉弟は、人間と狼の中間的な人種「おおかみこども」であったため、正式な出生届は出さずひっそり育てることになった。
そんな矢先、男は狼としての本能からか、大雨の中で狩りを試みて死んでしまう。残された花は悲しみにくれるが、2人の子どもをしっかり育てあげることを決意し、都会での暮らしをやめて、おおかみこどもたちが生きやすい田舎へ移住する。
急ぎすぎて説得力乏しい「人と狼男」の出会いと愛
オリジナルアニメーションということで、企画段階から宮崎あおいのキャスティングが決められていたのだろうか、声とキャラクターが実にマッチしている。タイトルは『おおかみこどもの雨と雪』となっているが、この映画は雨と雪を育てる花の話だと思う。人間と狼、どちらとして生きるべきかという雨と雪の葛藤はたしかに描かれているが、全編を通して花を中心とした構成となっている。
だから、夫である狼男との出会いから別れまでの1幕目の描き方に違和感を覚えた。まるでダイジェストのような作りで、音楽に乗せてテンポ良く、男と出会い→狼男だと告白され→子どもを授かり→男が死んでしまう。普通の大学生の女の子にとって、愛する人が実は狼男だったという事実はそう簡単に受け入れられるものではないはずだ。この描き方はたしかにわかりやすいが、作品序盤に超えなければならない大きいハードルをキャラクターがいとも簡単に越えてしまっているように見える。
主人公の感情を丁寧に描いていれば傑作になり得た凡作
画の力や宮崎あおいの演技のおかげで序盤から観客が置いていかれてしまうという失敗は免れているが、狼男という非現実な人種を観客に受け入れさせなければならないという意識があれば、もう少し丁寧に描くべきだったのではないか。
前半部分に限ったことではなく、全編を通してどこかあっさりとしている。クライマックスにも花とある人の別れが待っているのだが、その受け入れ方も非常に簡単だ。花と男との出会いから雨と雪が成長するまでの約15年間を焦って2時間にまとめてしまっているという印象を受けた。大自然の画力、豪華俳優陣の演技など目を見張る点が多いだけに、もう少し主人公の感情を丁寧に描いていれば『時をかける少女』、『サマーウォーズ』にも勝る傑作になり得た作品だった。
野崎芳史
おススメ度☆☆☆