地元警察の逮捕状請求に「いまは波風たてるな」。被害者の告訴も受け付けず
これまでも、1957年に群馬県内の在日米軍演習地にくず鉄を拾いに入った日本人主婦を、背後からグレネードランチャーを発射して即死させたジェラード二等兵(当時21)に対して、懲役3年・執行猶予4年という軽い判決が出たことがある。日本国内で大きな批判が巻き起こったが、ジェラードの処罰を最大限軽くすることを条件に、身柄を日本へ移すという「密約」が結ばれていたことが、1991年の米国政府の秘密文書公開で判明している。今回もこれと同じケースになる可能性があるというのは、春名幹男・名古屋大教授である。
「時期的にも、オスプレイの沖縄配備の直前に全国で試験飛行するという微妙な時期。オスプレイは将来的に全国の基地に配備される可能性があるので、こうした事件が世論に影響を与えることを、日米当局が懸念していることはじゅうぶん考えられます。(中略)日本側当局もオスプレイ配備への影響を懸念しているのは同じでしょう。決定的な証拠が出揃うまでは起訴しないつもりなのかもしれません」
文春は県警関係者の証言として、「逮捕状を請求しようとしたところ、司法当局から『オスプレイ配備の問題もあるため、米軍関連で波風が立つのは好ましくない』と待ったがかかっている」を載せている。
犯人が基地内に逃げ込んでいると、逮捕状を請求するためには、日米地位協定に基づく米軍の許諾が必要となり、事情聴取も米軍の協力に基づいて、犯人の身柄を憲兵に連れてきてもらって任意で取り調べることしかできない。
「現行犯逮捕でない場合、立件することすら難しく、もみ消される可能性もあります。現状では、あくまでも米軍側の協力に捜査が左右されてしまうのです」(池宮城紀夫弁護士)
事件発生から20日近く経つのに、寺坂さんの告訴すら受理していないのはおかしいと文春は強い疑問を投げかける。この事件がどこまで拡がるのかは、この記事だけではまだ不透明である。日米地位協定を持ち出すまでもなく、アメリカによる戦後の占領統治以来、沖縄だけではなく、日本を植民地として支配し続ける構図は変わっていない。そうした実態を日本人に可視化し、知らしめるためにも、文春はこの件を継続取材し、毎週報道し続ける気概を持ってやってもらいたいものである。