レスリング女子で63キロ級の伊調馨(28)と48キロ級の小原日登美(31)が金メダルを獲得した。伊調は日本女子初めての五輪3連覇、小原は最初で最後の晴れ舞台で金メダルに輝いた。
伊調馨「姉の声が天の声になって聞こえてきた」
伊調は姉の千春を気遣ってこう語った。「試合中、会場が一瞬静かになった時に、千春の声が天の声みたいに聞こえ、気が楽になった。不思議ですよね」
小さい時から姉の背中を見ながらレスリングに取り組んできた伊調に転機が訪れたのは、北京五輪で2連覇を果たした直後だった。アテネ五輪と同様、銀メダルで終わった姉が突然に引退を表明したのだ。
目標を見失った伊調は、レスリングをやめようかと思ったという。長い休養期間に入っていた伊調を再びレスリングに向かわせたのは、男子日本代表の合宿に参加した時だった。男子レスリングの多彩な攻撃型レスリングに魅了され、ロンドンを目指すことにした。
「試合直前の練習でぶつかってしまって」と苦笑い
小原は金メダルが確定した瞬間、マットにへたり込み泣き続けて、審判に促され正気に返ったほどだった。小原が挑んできたのは51キロ級だった。世界選手権を何度も連覇したが、この階級が災いした。女子レスリングは2004年のアテネ五輪から正式種目となったが、認められたのは7種目ある全階級のうち4種目で、51キロ級は外された。五輪を目指すには体重を落として48キロ級か、体重を増やし55キロ級しかない。
ところが、48キロ級には妹の真喜子が頑張っており、妹と戦うわけにはいかない。55キロ級には強豪、吉田沙保里(29)がいる。それでも55キロ級に挑戦したが、やはり吉田の敵ではなかった。全日本選手権で吉田に完敗し、「自分は心から笑える日が2度と来ない」と思ったという。
青森の実家に帰り閉じこもりの生活を送っていたが、レスリングの楽しさが忘れられず、51キロ級で再び世界選手権に挑戦して2連覇する。そんな折、妹が思わぬ話をする。「私は引退するので、今度はお姉ちゃんが五輪を目指して」。48キロ級でロンドン五輪が繋がった。辛い減量にも耐え、10、11両年の世界選手権を2連覇、さらに高校レスリング部の後輩の康司と結婚した。妹の後押しと夫婦で取り組んだロンドン五輪の結果が最高のメダル獲得だった。
ロンドンのスタジオに出演した小原に、司会の加藤浩次が「1回戦から右目を腫らして出てきて大丈夫かなと思いました」と尋ねる。
小原「試合直前の練習でちょっとぶつかってしまって」
キャスターのテリー伊藤「ボクはてっきり旦那さんとケンカしたかと思った」
スタジオ内で笑いがはじけた。