「日本選手団の活躍もあり、連日、番組のほとんどをオリンピックのニュースでお伝えしていますが、きょう(2012年8月7日)はここで、非常に重要なニュースがあります」
オリンピック報道が1時間半近く続いたあと、ロンドン五輪取材の小倉智昭に代わり司会を務めるアナウンサーの笠井信輔が神妙に言う。東京電力の福島原発事故の初期対応をめぐるテレビ会議の映像公開のニュースのことだ。
菅首相の本店乗り込み場面は音声なし
「本店、本店、大変です、大変です」「はい、本店」「3号機、多分、水蒸気爆発が起こりました」「11時1分です」「11時1分、了解」「現場の人は退避、退避」
生々しいやり取りや怒号が飛び交い、緊迫した状況を伝えるが、それにしても不可思議な映像公開だ。首相官邸と東電の対応でしばしば問題になった2011年3月15日の菅首相(当時)が東電に乗り込んでいった際の映像を見ると、東電社員の前で身体を揺らし、手振り激しく、怒ったように訴える菅の様子が捉えられている。だが肝心の音声がない。国会事故調の調査では「撤退などあり得ない。命懸けでやれ。逃げてみたって逃げ切れないぞ。60歳になる幹部連中は現地へ行って死んだっていいんだ。俺も行く。社長、会長も覚悟を決めてやれ」といったとされているが、東電は「もともと音声がない」と話す。
これに対し、菅は「そこだけ隠してくれと言ったことはありません。ぜひオープンにしてもらいたい。音もどこかにあるはずだと思っています」と東電の釈明に疑問を投げかける。
150時間分閲覧は録画・録音禁止。公開は東電編集の要約版90分だけ
今回公開されたのは、2011年3月11日から16日までの東電本店と福島原発の現場とのテレビ会議ののべ約150時間分だが、すべての映像を視聴できるのは登録した報道関係者に限られ、東電本店に設けられた視聴室で9月7日までと期限付き。録画、録音は禁止だ。テレビ放送などで一般に公開できるのは、報道陣用に東電が編集した約1時間半の要約版だけだ。東電は社員のプライバシーなどを理由に映像公開を拒んできたが、そのためなのか、公開映像にはぼかしやピーという音が入るなどの処理がなされているという。
笠井は「事故を起こした東電がなんの権限を持って、上から目線で話をしてくるのか。疑問に思いますよね。(都合の悪いことを隠しているんじゃないかと)勘繰ってしまう状況が起きていると思います」といい、「いずれにしても、このオリンピックの最中に公開され、オリンピックのニュースに埋もれかねない状況なので、どういうことを考えながらの公表だったのか、考えてしまいます」と東電の姿勢を批判した。「とくだね!」もオリンピック期間中とはいえ、浮かれることなく、大事なニュースを落とさないように。