まったく違う3本のレールが交わった一瞬の輝きと失望感
貫多がずっと肉体労働者ルックなのに対し、あか抜けないけど当時の流行もの(ラルフローレンとかコシノジュンコ)を着ていた正二は、どんどん東京の若者らしくなっていく。その「住む世界が違う」感が、異なる終着点に向けて引かれた人生のレールが、ある一点で交わったことの意味を雄弁に語る。正二と康子と過ごした一瞬は、貫多の中で輝かしい思い出になる。でも列車のレールは2度と交わらない。タイトル通り、彼が乗るのは「苦役列車」なのだ。最後まで観ると、なぜ作者は「書かねばならなかった」のかがずんと迫ってくる。
友ナシ、金ナシ、女ナシ、この愛すべきろくでナシ。劇場ポスターに書かれたキャッチコピーだ。でも「愛すべき」と思った次の瞬間に、こちらの信頼を裏切るのが貫多という男なのだ。憎み切れない部分があるのもわかるんだけど…。観てスッキリはしないが、個々の役者のファンなら一見の価値あり。憎まれっ子だけど世に憚れない小者の悲哀に何を思うかは、どの役に感情移入するかで変わってくる。
(ばんぶぅ)
おススメ度:☆☆☆