本当は「国民総幸福」なんかじゃないブータン―ローン漬け、核家族化、貧困医療
「AERA」の記者が20日間ブータンにいて取材をしたルポがおもしろい。人口70万人。大家族で、みんなで助け合う生活をし、来世でも人間に生まれ変わるために日々お祈りするブータンに、日本人の多くは古き良き伝統が残った国と評価するが、この国も消費経済の波が押し寄せ、貧富の格差は広がり、インターネットの普及により、他国の生活をあこがれる若者たちが増えているというのだ。
ブータンの首都ティンプーは住宅建設ラッシュと急増したクルマによる渋滞で、のどかなイメージが失われていると記者は書いている。しかも、クルマも住宅もローンで買うから、政府はこの4月に新規ローンの凍結を命じた。
「ブータンでは貨幣経済が一気に浸透してしまったので、人々がお金についての知識をまだ十分に身につけていないのです。また、ブータン人は来世を信じ死を身近に感じるからこそ今を明るく楽しむという姿勢がある。そのためローンを気軽に借りることにつながってしまったのではないでしょうか」(現地に住む高橋孝郎)
核家族を好む世代も増え、プライバシーを保ちたいために親とは一緒に住まない若い世代も増えているようだ。都市の人口の増加、都市と農村の貧富の格差。医療費は無償だが、ティンプーの国立総合病院では毎朝7時頃から200人もの列ができ、それがいやならお金を払えと、待ち時間のない窓口が病院内にできたそうだ。高額なプライベートクリニックも近く市内にできるそうだが、この開設には元政府高官が関わっているという。
王立ブータン研究所が10年に実施した国民の意識調査によると、「幸せ」と定義された人は41%しかいなかったという。以前の国勢調査とは調査方法が違うので単純比較はできないが、やはり10年の調査で87・8%が「この数年で大多数のブータン人が、物質的な豊かさに関心を持つようになった」そうである。また、ブータンには全国で180人余りの医師がいるそうだが、小児科医は7人だけで、機器も不足していると指摘するのは国立総合病院に勤務する西澤和子だ。
ブータンは貿易のほとんどをインドに頼っているため、貿易赤字が拡大してインドルピーが足りなくなりインフレが始まっている。ブータンも市場経済と無縁ということはなく、その波の中でブータンの国民総幸福(GNH)がどうなっていくのか、心配ではある。