イネのセシウム汚染を防げ!福島・二本松で学者チーム取り組み

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   福島原発事故から2度目の田植え時期を迎えた福島県二本松市の水田地帯で、田植えを断念する農家が相次いでいる。汚染を想定していなかった場所で収穫されたイネから、放射性物質が検出されたのが背景にある。放射性物質がイネにどのように吸収されたのか。メカニズムが解明されない限り田植えはできない。

   この農家の窮状を受けて昨年秋(2011年)、研究者たちが分野を越えて集結した。合同でナゾ解明に取り組んだ結果、そのメカニズムの一端が最近分かってきた。放射性物質を排出した原子力ムラの科学者は信用できないが、こちらの地道な科学者はめっぽう頼りになる。

去年米から高濃度検出で田植え中止

   福島県北部の二本松市。周囲を山で囲まれた山里の水田地帯は山からもたらされた豊富な栄養分で良品質のコメがとれ、全国4位の収穫量を誇る。この山里では、原発事故後も高濃度の放射性物質で汚染される可能性は低いと見られ、みなが田植えに取り組んだ。ところが、秋に収穫された米から1キロ当たり500ベクレルを超える放射性セシウムが検出された。

   福島県は当初、汚染されたコメができるのは砂が多い土壌と見ていた。放射性セシウムが吸着されにくいためで、イネに吸収されやすいと見ていたのだ。ところが、イネから高濃度のセシウムが検出された土壌を調べたところ、いずれもセシウムを吸着しやすい粘土質の土壌であることが分かった。汚染された米を作っていた農家は38戸とわずかだったが、放射性物質がどこからどのようにしてイネに吸収されたか。このナゾが解明されない限り、他の農家でも同じことが起きる。田植えは断念せざるを得なかったのだ。

「犯人」は落ち葉と雑草だった!夏に大量の流れ出し

   このナゾの解明しようと、東大を中心とした研究チームが発足した。さまざまな分野の研究者が40人以上集結し、複雑な山里の生態系に取り組むことになった。

   土壌以外に原因があるとすれば、渓流を通って水田に流れ込む水か。調べた結果、水に含まれるセシウムの濃度は1リットル当たり検出限界の1ベクレル以下で、どう見積もってもイネに与える影響は低いという結論だった。水でないとすると、イネと放射性物質を結び付けるパイプは何なのか。

   チームのメンバーで植物の成長メカニズムが専門の根元圭介東大教授は、汚染の原因をたどるにはセシウムの吸収が進んだ時期を特定する必要があると考えた。高い数値が出た1本のイネの葉と茎を成長順に仕分けし、放射性セシウムの濃度を特殊な装置で調べたのだ。すると、濃度は事故直後の春よりも、成長する夏の方が数倍に上っていることが分かった。

   これをもとに、今度は農地の物質循環を研究する塩沢昌東大教授が、水田の中で夏に何が起こっているのかに取り組んだ。イネから高濃度の数値が出た水田を詳しく調べたところ、ある共通点に気づいた。水田のほとんどが山に近く、落ち葉や雑草が水田を覆っていたのだ。そこで、実験室で春から夏にかけての気象を再現し、落ち葉や雑草の混じった土と混ざっていない土の鉢にそれぞれイネを植え、同量の放射性セシウムをかけてイネの吸収量を調べた。すると教授の仮説通り、落ち葉や雑草の混じった鉢のイネから2倍の放射性セシウムが検出された。塩沢教授が導き出した汚染のメカニズムはこうだ。

「落ち葉や雑草などの有機物についた放射性セシウムは、水田の中で水に溶けることなく夏までそのまま残っている。夏に水田の気温が上がり有機物の分解が急激に進む中で、有機物に付着していた大量の放射性セシウムが流れ出し、イネが最も養分を吸う夏に一気に吸収されたのではないか」

水口にもみ殻敷いて濾過

   ゲスト出演した福島大の小山良太准教授は、「放射性物質が有機物から溶けだしたというのであれば、落ち葉や雑草を取り除く対処の仕方があり朗報と思う」と話す。実際、この汚染メカニズムの解明を受けて、汚染対策に取り組む農家がある。水口(みなくち)にもみ殻を詰めた網袋を敷き、有機物を入れないようにして濾過した水だけを水田に入れるのだという。

   小山准教授は「もみ殻を使うのは研究者チームとの対話の中から考えられた方法と思う。科学的な知見を実際に運用するには、こういうのがないとなかなか普及しない」という。研究チームの本格的な成果は道半ばだが、着実に進んでいることだけは確かなようだ。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2012年6月20日放送「『里山』汚染メカニズムを解明せよ~福島農業・2年目の模索~」

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