<外事警察 その男に騙されるな>NHKの人気テレビドラマの映画化作品である。警察組織の中でももっとも秘密に包まれている警視庁公安部外事課とテロリストとの攻防を緊張感溢れるタッチで描いたサスペンスエンターテイメントだ。渡部篤郎、尾野真千子らテレビドラマ版の主要キャストはそのままに、真木よう子、田中泯などの演技派俳優が脇を固めている。今まで描かれることのなかった外事警察の世界を綿密な取材、警察関係者の影の協力により映像化に成功した。
話拡げすぎてとっ散らかり
警視庁公安部外事課は国際テロを未然に防ぐための組織。東日本大震災の混乱のつづく2011年、何者かによって原子力関連の部品データが被災地の大学から盗み出された。同じころ、朝鮮半島では濃縮ウランが流出していた。盗まれた部品データとウランがあれば核爆弾の製造が可能ということで外事警察が動き出した。
「公安の魔物」と呼ばれる住本(渡部篤郎)を中心とした外事四課は、工作員と思われる一人の男・奥田正秀をマークし、その妻の果織(真木よう子)を協力者=スパイとして取り込む工作にとりかかる。住本は果織の情報を徹底的に洗い、精神的に揺さぶりをかけて果織の抱き込みに成功するが、何者かによって路上で刺されてしまう。
ドラマ版のキャスト、スタッフが再結集しているため、独特のダークな雰囲気は映画版にそのまま移行され、舞台を朝鮮半島にまで広げて展開はよりダイナミックになった。また、韓国の名優キム・ガンウ、イム・ヒョンジュンらも登場するアクションシーンは映画版ならではの魅力で、心理戦に重きを置いたドラマ版とは一線を画している。
ただ、話を拡げすぎてテーマが伝わりにくくなってしまった。たしかに住本を中心とした作りにはなっているが、果織とその娘や夫の関係を縦軸のように見せながら、田中泯演じる原子力開発のスペシャリスト除昌義にも比重をかけるなど、全体的にとっ散らかっている印象があった。
渡部篤郎と衝突する正義派捜査官が魅力なのに…
ドラマ版では主演級の扱いであった松沢(尾野真千子)の影があまりにも薄い。任務のためには民間人も犠牲にする冷徹な住本に衝突する、ドラマ版のような松沢はあまりみられない。そんな対立、葛藤を通して「正義とは何か」を問うた点がドラマ版の最大の魅力であったはずなのに…。
とはいえ、渡部篤郎、真木よう子、田中泯、キム・ガンウらの緊迫の演技合戦は見て損はないだろう。よくぞここまで癖のある俳優人を集めたと思うし、そんな彼らを束ねた堀切園健太郎監督の演出力はさすがだ。
(野崎芳史)
おススメ度☆☆☆