東電値上げ「燃料高の大ウソ」「潜り込ませた原発再稼働準備金」

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   「週刊ポスト」はこれまでも東電や政府のいう原発停止による燃料代高騰のための値上げに強く反対してきた。今号でも、東電の値上げがどれだけ理不尽なものか数字を使って説明してくれている。この号が出た後の「朝日新聞」(2012年5月23日付け)が朝刊1面トップでこう報じた。

   「経済産業省が全国10電力会社の電力販売による収益を調べたところ、家庭向け電力が販売量の約4割しかないのに、利益の約7割を占めていることがわかった。一方、販売量の約6割を占める企業向けは、利益の約3割しかなかった。企業向けに比べ、家庭向けが割高になっているからだ。(中略)電力会社が家庭向けと企業向けでどのくらいの利益を得ているかは、これまではっきりしなかった。政府の『東電に関する経営・財務調査委員会』は昨年10月にまとめた報告書で、東電の家庭向けからの利益の割合が91%であることを初めて公表した。他の電力会社でも家庭向けの利益が大きいため、今後は利用者から家庭向け電気料金の値下げや、家庭向け電力の自由化を急ぐよう求める声が高まる可能性がある」

天然ガス購入価格―国際相場の10倍

   ポストの主張を見てみよう。経産省への申請なしで自動的に電気代に転嫁できる「燃料費調整制度」というのがあるそうだ。その制度を利用者に知らせず、原発事故後もこれを使って値上げをしていて、今年6月分までの値上げ幅が標準モデル(従量電灯B30アンペア 毎時290キロワット)で722円になるそうだ。

   燃料費の高騰も眉唾だと批判する。火力発電の燃料の主力は天然ガス(LNG)で、11年度は約1兆5295億円分を購入している。1トン平均6万8500円だが、これが国際相場と比較するとバカ高いというのだ。

「国際市場ではLNGは100万BTUあたりの価格で取引される。米国では近年、地下の岩盤にあるシェールガスが採取されるようになった。そのため天然ガス価格が大きく下がり、この4月には1・8ドルをつけた。しかし、日本は中東や東南アジアの産油国から調達し、価格も石油価格に連動するという不利な契約で、昨年は概ね18ドルで買っています」(岩間剛一和光大学教授)

   半額ででも調達する努力をすれば、8000億円近くが浮く計算になるというから、それだけで電気料金を値上げしなくても済むはずである。また、原価計算の内訳を分析すると、賠償金以外の事故関係費用がこっそり算入されていることがわかった。ポストの計算では、少なくとも1332億円が「委託費」などの名目で値上げ料金の中にもぐりこまされている。

   さらに、原発は停止しているときのほうがコストがかかり、原発関係費用を合計すると約3600億円。東電が今回の値上げで調達する年間6000億円以上の資金の6割が、燃料費ではなく原発のために使われる「再稼働準備金」であると難じる。

福島・双葉町町長「政府も東電も被災者を救済する気がない」

   原発再稼働を熱心に進める仙谷由人(民主党政調会長代行)は、自ら設置した「東京電力に関する経営・財務調査委員会」などの委員長を歴任した弁護士・下河辺和彦を東電の新会長に起用したが、これではチェックアンドバランスが働くはずがないとする。

   東電には原発事故で国民に深刻な被害を与え、破綻状況にあるという意識などまったくないとも指摘している。最後の井戸川克隆双葉町町長の言葉が胸を打つ。

「職も収入も失って日々の生活に苦しんでいる町民に、政府は『賠償は東電の仕事だ』と知らんふり。その東電からの賠償は全く進んでいない。本来は避難、除染、復興の手順で取り組むべきなのに、耳当たりのいい復興の掛け声だけで避難や除染も棚ざらし。しかも全県に振りまかれた放射能について、政府は『無主物』という。持ち主がいないから、責任者もいない、市町村の責任で除染してくれという言い方です。政府も東電も被災者を救済する気がないことの証です。これが棄民じゃなくてなんでしょう」

   ポストの主張に頷けないこともあるが、これには諸手を挙げて賛同したい。

原発報道抑えろ!日テレ「言論圧迫」で名物ディレクター退職

   そのポストで、今年3月に日本テレビを辞めた水島宏明元解説委員(現法政大学教授・54)が、テレビの原発報道を批判をしている。彼は良質なドキュメンタリー番組として評価の高い「NNNドキュメント」のディレクターとして「ネットカフェ難民」シリーズなどを制作してきた。

   東日本大震災以降、「NNNドキュメント」の企画会議で、「うちは読売グループだから、原発問題では読売新聞の社論を超えることはするな」といわれたという。どこのテレビ局も同じだが、新聞社の意向を無視して現場の判断だけでドキュメンタリーをつくることはできない。ましてや読売は正力松太郎元社主が原発を推進した「原発の父」であるからなおさらであろう。

   こうした現場軽視の現状を痛感して辞める決意をする。今年の3月11日、震災一周年の各局の特番を見ていた彼は、「正直、日テレが一番ひどいと感じた。被災地と直接関係のないタレントの歌を流し、キャスターは被災地を訪れて『復興』を強調するものの、そこには報道の基本である視聴者の教訓になる情報がない。取材も表面的で、被災者のリアリティが伝わってきませんでした」と話している。

   そうしたことをみんなが感じていたのに、誰も何もいわなかった。最後の出勤日となった3月30日に、報道フロアに集まった同僚に対してこういった。

「ひどい番組をひどいといえない。それではジャーナリズムとはいえない。事実を伝える仕事なのに。もっと議論して、いいたいことをいい合おうよ」

   しかし幹部が同席していたため、それに賛同する声はなくシーンと静まりかえっていた。

   日テレ系列の福島中央テレビは震災翌日、福島第一原発1号機の水素爆発の瞬間をメディアで唯一撮影して速報した。ところが、その映像が日テレの全国ネットで流れたのは1時間も経ってからだった。報道局の幹部が、状況が確認できないまま映像を流せば、国民の不安を煽って後から責任を問われかねないと、専門家の確認がとれるまで放映を控えてしまったからだ。水島は、影響がどこまで及ぶかわからないからこそ、「確認はとれていないが爆発のように見える現象が起きた」といい添えて流すべきだったと話す。しかも、この経緯は未だに社内で検証されていないそうである。

   本社や記者クラブ詰めの記者の多くは、原発事故で信頼を失った後も、国や東電のいうことをメモするだけで、現場に行って自分の目で確かめることはほとんどしない。彼はこうした現状を変えるために日テレを辞め、学生に本来のジャーナリズムを教えたいと話している。私も長く大学で教えているが、学生たちにジャーナリズムの何たるかを教えるのはなかなか難しい。彼の講義を一度聴いてみたいものだ。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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