関越自動車道で7人が死亡したツアーバス事故から1週間が経過した6日(2012年5月)、事故を起こしたバス会社「陸援隊」の針生裕美秀社長が初めて会見した。社長は事故を起こした河野化山容疑者の勤務状態について、「3か月間の平均乗車時間は月100時間程度で、過労運転となるものではなかった。直前の3日間は休養させていた」と言い張った。
しかし、河野をよく知るバス運転手仲間は、「それはまったくのウソでしょう」という。河野は陸援隊の仕事以外にもバス4台を購入し、観光バスツアーを受注する独自営業で月500~600万円の売り上げをあげていたという。そのため、「ツアーの手配や車の修理、洗車などで過労状態にあった。事故直前の3日間についても運転はしていなかったかもしれないが、車の修理などで休めなかったと思う」と証言する。
事故ツアー3日3万円の日当―社員採用カネかかる
河野は「自分は陸援隊のアルバイト運転手」と話しており、では陸援隊の雇用形態はどうなっていたのか。社長は「正式な雇用契約はないけれども、日雇いではありません」と説明しており、弁護士は「外形的な事実からして、それが日雇いに当たるかどうかという評価の面については、われわれも(日雇いに)当たる可能性の方が大きいだろう」と、事実上の日雇いを認める発言をしている。
道路運送法では短期雇用を禁じているが、陸援隊が抱える運転手10人のうち4人は事実上の日雇い。運転手仲間は「運転手を抱えると、ある程度の給料の保障を提示しないといけない。日雇いなら1日いくらで済むでしょう」という。河野が事故を起こしたツアーは3日間で、「1日1万円。3日間で3万円の給料」が支払われることになっていたらしい。
運転手の河野「バス4台持って自分でも会社」
不可解なのは月600万円の売り上げがありながら、河野はなぜ1日1万円の陸援隊の仕事を請け負ったのか。名義を借りるためだ。バスツアーの運行許可を受けていない河野は昨年8月、所有する4台のバスを陸援隊に持ち込み、名義を借りて白バス営業を続けたらしい。社長は「自分としては名義貸しを行ったつもりはないし、名義料をもらった事実もない」と弁明しているが、運転手仲間は「そう言うしかないでしょう。自分が取り調べの立場になっちゃいますからね」という。名義を借りている手前、割の合わない仕事でも断れない主従関係にあったようだ。
小泉構造改革で規制緩和されて以来、2010年には4492社と2倍近い数に増えた貸切バスの事業所が、こうした危険を承知で綱渡り営業を続けている思うとゾッとする。
コメンテーターの青木理(元共同通信記者)「規制緩和が正しかったのかどうか、他にこうした業者があるのかないのか、何もしてこなかった国交省の不作為はきちんと追及しないといけない」
石原良純(気象予報士)は「この瞬間もバスは走っていますからね」と身震いしていた。