老朽化した放置空き家が全国で大きな社会問題になっている。過疎化高齢化が進む地方都市だけでなく人口の多い大都市でも増加の一途なのだ。総務省の住宅・土地統計調査によると、全国で老朽化し放置されたままの1戸建ての空き家は181万戸、利用されていないマンションは72万戸もある。放火による火災発生やゴミの不法投棄、建物の倒壊の怖れから、周辺住民の安全・安心を脅かす存在になっているという。
根底にあるのは、住宅が需要に比べ過剰に供給され続けてきたことだ。低利の住宅融資制度や住宅ローン控除でマイホームの夢を後押し、景気浮揚効果も期待されてきた。その結果、おびただしい数の戸建て住宅が建てられたが、その一方で、親が亡くなっても子どもが家を継がず放置される空き家が増えているのだという。
個人の財産への介入は難しいと深入りを避けてきた自治体も動かざるを得ない現状で、空き家の管理を所有者に義務付ける条例を作って対策に踏み込む自治体が、ここにきて50余りに増えている。
自治体の「取り壊し指導」に固定資産税優遇の壁
大曲の花火大会で知られる人口9万人弱の秋田県大仙市。先月5日(2012年3月)、全国初の行政代執行による空き家の撤去を行った。市内の空き家の数は昨年で1415戸、5年間で1.5倍に増えた。今年1月に「空き家等の適正管理に関する条例」を施行し、立ち入り調査や指導を行い、所有者が応じない場合は市が代わって撤去できることにした。
雪の重みで建物が倒壊し、道を塞いだり隣家になだれ込むケースが相次いでいるためのだ。しかし、それでも空き家対策は思うように進んでいない。危険な空き家61戸のうち撤去できたのはわずか2例だけ。所有者の特定が難しいのだが、廃屋のような空き家でもだれかの財産なので、勝手に処分するわけにはいかない。また、特定できても、所有者が解体費用を捻出できないケースもあるという。
空き家が増えているのは過疎化が進む地方ばかりではない。住宅が密集する東京・足立区も空き家が増え、近隣住民は「ストレスですよ。夜寝ている時に火でもつけられたら怖い」と不安がる。
地震発生時に倒壊して道を塞いだり火災を広げる原因になるとも指摘されており、足立区は昨年11月に「危険な空き家の管理を所有者に義務付ける条例」を施行した。条例施行後、200件を超える空き家の指導を行ってきたが、解体に至ったのはわずか23例に留まっている。解体を拒否される理由で多いのは、土地にかかる固定資産税の優遇制度の対象でなくなってしまうことだ。200平方メートルの土地に住宅を建てると、原則6分の1に固定資産税が減額される。この優遇措置は空き家でも適用されるが、解体して更地にすると税額は6倍に跳ね上がる。地価の高い大都市では固定資産税も高額になるため、解体は一向に進まない。足立区の担当者は「空き家に減免措置が適用されるのは納得できない」とぼやくが、いまのところお手上げである。
マイホーム促進で景気刺激のツケ―いまだに続く供給過剰
神戸大大学院の平山洋介教授は「空き家対策の基本はこれ以上空き家を増やさないことだが、人口が減り始めているのに新しい住宅をたくさん建てることをまだやっている」と嘆く。平山教授によると、1970年代までは住宅が足りなかったが、80年前後に世帯数と住宅数がほぼ一緒になった。ところが、住宅建設を経済対策に使うようになって、そういうシステムから今も抜け出せないでいるという。
キャスターの国谷裕子が「新築によって経済を回すのは現実的なのでしょうか」と聞く。平山教授はつぎのように答えた。
「空き家を仕分けすることによって、良質の中古住宅を取得する人に対し、税制や融資面で優遇するインセンティブを与える政策が必要になる。そうすることによって、自分の住宅を手に入れ、価値を維持するインセンティブも働くようになる。
人口減少が起きているが、今後は世帯数も減少していく。昨年の新築件数は80万戸、既存の住宅は5000万戸で、これを丁寧に手入れすることによって積み上がる経済効果は大きい。ヨーロッパのように、世代間にまたがって使用できるようなしっかりした住宅を建てるようなインセンティブも働く」
少子高齢化による人口の減少によって、家づくりや街づくりの在り方まで問われる時代に入ってきたといえる。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2012年4月18日放送「『空き家』が街をむしばむ」)