関西電力大飯原発3、4号機の運転再開手続きが進む。福島原発事故のあとに政府が導入したストレステストで「福島級の津波にも安全」という第1次安全評価が出て、保安院がOKして地元への説明が始まった。了解がとれれば政府が再開の判断をするはずだった。ところが、専門家から「1次だけでは不十分」と指摘を受け、テストそのものへの疑義も出て、地元は安全性への不安が払拭しきれない。野田首相も「新たな基準」を作るよう指示を出した。停止したままなら、5月(2012年)には日本の54の原発が全て止まる。
「鋼鉄製水密扉」津波に耐えられても浮遊物衝突で破損
関西電力は高台に4基の非常用ディーゼル発電機を設置、建物には厚さ13センチの鋼鉄製水密扉で津波の侵入を防ぐなどの対策をほどこした。この結果、第1次評価のシミュレーションでは、対策前は4.6メートルの津波でダウンしたものが、11.4メートルまで耐えられると出ていた。だが、実証実験をしてみると、津波には耐えても、浮流物(船、車、家屋など)の衝撃には耐えないとか、津波の複雑な動きが捉えきれていないなど、問題点が次々に明らかになった。たとえば、津波のスピードが速いと3メートルの波高で10メートルの防波堤を超えてしまうという試算もある。
また、保安院が先月まとめた30項目の安全対策には、ベントのフィルター設置など実施に数年かかるような内容も含まれている。加えて、福島事故の検証も終わっておらず、国のチェック態勢も事故前のままだ。大飯原発の地元民が不安をぬぐえないのもこのためである。
原発に近い大飯町には原発作業員のための旅館や民宿が並ぶが、原発が止まったいまは予約もない。旅館の経営者は「収入が 途絶えるのは困るが、原発の不安もある。何といっていいか」と絶句していた。
安全対策をめぐっては、30項目を全部やっても不安だという人もいる一方で、きりがないという意見もある。線引きは難しいが、どこかで線を引かないといけない。その判断は事故のリスクと発電や地域の利益とを秤にかけることになる。
原発大国フランスには地元住民が監視する「地域情報委員会」
原発と住民との関係で、微妙なバランスを保っている例がフランスにあった。フランス北部のグラブリーヌ市の原発は欧州最大規模だが、住宅街のすぐそばにある。安全に対する住民の意識は非常に高い。また、地域の声を直接政府に届ける仕組みがあった。原発情報の公開をうたった原子力安全透明化法に基づいて作られた「地域情報委員会」だ。ほぼ毎月市役所で開かれる。出席は住民・周辺住民代表、電力会社、政府原子力安全局、市議会、労組、環境保護団体。住民代表は週に1度の集会で住民の声を集約して委員会に出す。
ちょうどいま、大飯原発で出ているようなさまざまな疑問や問題提起が住民から出ている。法律ではこれに「8日以内の回答」を義務づけ、電力会社が出席を拒否したり、情報を隠したりすると罪に問われる。住民には原発立ち入りと水の汚染調査の権利も認められている。
平川秀幸・大阪大学准教授は「法制化は1981年で、長い実績のなかで制度に対する信頼がある。日本には何もないから不安も底なしだ。無策のツケ。日本もいますぐ始めないといけない」という。その通りだろう。だが、情報を隠し、安全神話を押し付け、不安を金で買ったのが日本の原発だ。政府も自治体も学者もマスコミも、電力会社のシナリオに乗っていた。議論に入るだけでも途方もない仕事に思えてくる。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2012年4月5日放送「どうする原発運転再開 不安は解消されるのか」)