こいつぁ驚いた。「地獄じごく」という32年も前に出た絵本がいま急に売れ始めているのだという。出版社の方もびっくり。中身は地獄のイメージそのものだ。もとは千葉・安房郡の延命寺あった「地獄極楽」という絵巻き。赤鬼がウソをついた人間の舌をひっこ抜いたり、殺生をしたものは手足を切られ体を輪切りにされる、血の池を泳がされ、針地獄、火あぶりされる亡者たち…。いや、おそろしい絵が次々と現れる。
「嘘ついたら釜ゆで地獄じゃあ。盗みは火あぶり地獄だぞう」
これがいま、「泣く子も黙るコワ面白さ」「東村アキコさん推薦」などと人気で、書店の本棚はカラッポだ。「品切れ入荷待ちです」とある。入ったらすぐ売れてしまうそうだ。ネットの書店でも、「入荷次第発送」になっていたり、定価1575円(税込み)が「3690円より」となっていたりする。値段をたどると、6000円超から最高は1万2800円まであった。出版の風濤社では「この数週間の動きには正直、戸惑っています」という。
ネットの購入者の評価も平均で4.88だ。「学校の読み聞かせにいい」という書き込みがあった。「ウソをついたり盗んだりすると、この地獄へ堕ちるというと、しーんとしていました。小学1年生、5歳、3歳の子どもたちにも端的に伝わった」とコメントにある。
幼稚園でこれを紙芝居にしてみせてみた。「閻魔大王だ。お前を地獄へ連れて行く」とお姉さんが読み始めたら、こどもたちが固まった。「お前は針地獄に堕ちろ」「あーっ!」と叫んで見せる絵は、赤鬼が胸に刀を突き立てて血しぶきが上がり、腕が切られてそれを餓鬼が食べている。「ウソをついたり、約束をやぶったものは釜ゆで地獄じゃ」。黒鬼が釜をかき回している。「盗みをしたものは火あぶり地獄」。男の子は耳をふさいでいた。
「告げ口をしたら針地獄。お前さん方も気をつけなされや。おしまい」と終わると泣き出す子や先生にかじりつく子が出た。しかし、絵本を見せると指差したり興味津々だ。絵本の最後は、「子どもたちよ、いのちをそまつにするなよ」と大きな字があって、お釈迦様の絵で終わる。