伊丹監督「お葬式」台湾版―喪失感浮き彫りにする巧みなユーモア

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(C) 2010 Magnifique Creative Media Production Ltd. Co. ALL rights reserved
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父の初七日>小規模上映ながらじわじわと観客を集め、異例のロングランヒットを記録して、2010年度の台湾のアカデミー賞にあたる金馬賞で7部門にノミネートされた。ワン・ユーリンと原作者のエッセイ・リウの共同監督作品だ。

   舞台は台湾中部の片田舎。突然の父の訃報を受けて、台北で暮らす娘アメイが帰省する。兄や従弟や叔父が集まり、伝統的な道教のしきたりに沿った葬儀が行われることになったが、そこから思いもよらない「旅」が始まることになるのだった。

しきたりに振り回される兄妹をコミカルに描いたロングランヒット

   お葬式という題材は必然的に「暗さ」を持つが、この映画はどんよりとした部分をユーモアで外していく。葬儀のしきたりに振り回される兄妹の姿をコミカル描くテンポが良い。さしずめ台湾版伊丹十三監督の『お葬式』というところか。

   演出も愉快だが、興味深いのは台湾の道教伝統葬儀だろう。占いで葬儀の日を決め、指示されたら遺族は絶対に泣かないといけないというしきたりもある。線香はものすごく長く、紙細工を燃やしたものを故人に送る。お祭りのような騒がしい楽隊も登場して、日本とはずいぶん違う。

   慌ただしい葬儀を愉快に撮ることによって(葬儀に関するディティールをもっと見たかったが)、父を失った喪失感が浮き彫りになっていく。笑いの隣には哀しみがあり、哀しみの隣には笑いがある。

   親しい者を失うというのはどういうことなのか、言葉ではなく映像で語る。幼い頃に目の前に広がった希望で溢れているキラキラした未来、外で何があろうとも家に帰れば絶対に自分を受け入れてくれる存在――。そういったものはずっと前から失ってしまっていたのだろうが、現実としてはっきりと別れに直面すると、「事実」としてもうあの頃には戻れないことを知って人は泣き、いろいろなことを想うのだろう。その想いは言葉では語れない。誰もが持つ心情を呼び起こすところが、異例のロングランヒットの秘密だ。

おススメ度☆☆☆☆

川端龍介

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