倒産会社の負担金次々上乗せで督促3倍
こうした動きのなかで、年金基金の構造的な問題も浮かび上がってきた。被害に遭わなかった基金でも厳しい。場合によっては企業経営を圧迫して、倒産に追い込まれるケースも出てきた。基金が立ち行かなくなって解散すると、目減り分の穴埋めは企業にかかってくる。さらに、国から預かって運用していた厚生年金の資金の返済もある。
神戸市のタクシー会社(社員90人)は、6年前に基金を解散したときから赤字に転落した。基金には50社が加入していたが、穴埋めと厚生年金資金返済の負担が各社にかかってきた。この会社の負担金は1億5700万円だった。会社の利益の15年分である。
それでも6年間、毎月190万円を返済し続けてきた。給与をカットし、新車切り替えを先延ばしにしているが、それも限界に近づいている。すでに廃業した会社もある。負担額ははじめは1億2000万円だったものが、先月の督促で3億4000万円になっていた。廃業した会社の分が残りの会社にかかってくるのだ。50社のうちすでに14社が倒産している。「つぶれた会社のためにこっちもつぶれる。それも年金のために」。年金のお陰で連鎖倒産が広がり始めているのだ。理不尽も極まる。
ではなにか対策はあるか。連鎖倒産は防げないのか。「特効薬はない」と森戸英幸・上智大教授はいう。「今の年金運用のモデルが限界にきた。新しいモデルを作らないといけない」と話す。そんなもの間に合うわけがなかろう。それでは神戸のタクシー会社は1社も生き残れまい。
株に依存したシステムがとうに破綻しているのに、 誰もシステムそのものに警鐘を鳴らさなかった。株が上がるのを祈って待つだけ。国家とはかくも頼りないものだったか。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2012年3月15日放送「」「年金資金が消えていく ~AIJ巨額損失の衝撃~」