投資顧問会社に運用を任せていた企業年金2000億円が消えた。運用を委託していた基金側からの「(国の)チェック体制強化が必要だったのではないか」という声に、コメンテーターからは「甘い!」ときつい指摘が出た。
このご時世にAIJ投資顧問「高利回り安定運用」
問題のAIJ投資顧問会社は、前身の外資系投資顧問会社を引き継ぐ形で大手証券会社出身の浅川和彦現社長が設立した。浅川社長は2004年度の高額納税者番付にも登場している。
発覚のきっかけになったのは、先月(2012年1月)から金融庁が行っていた検査だった。顧客から預かっている資産の運用状況に不明な点あり説明を求めたところ、AIJ側は「現時点で毀損額、毀損原因は精査中であるものの、投資家に現在の運用状況を説明でいない状況にある」という報告が返ってきたという。
デフレ不況下、超金融緩和でゼロ金利傾向が続く中、運用がうまくいかない方が常識の時代。その中でAIJは高利回りや長期安定運用を謳い顧客を勧誘していた。しかし、AIJは業績や運用実績の詳細は明示せず、顧客に提示したのは高成績の報告ばかりだったようだ。リーマンショック直後もマイナス成績にはなかったという。
AIJに運用を委託していた企業年金基金の常務理事は、「こんなことがあるとは思いませんでした。(国の)チェック体制の強化が必要じゃなかったかなと思う。誰を信用していいか分かりませんからね」という。たしかに、金融庁の投資顧問会社への検査は20年に1度の割というから少ない。ただ、全国に263社もある投資顧問会社を子細に検査するにはそのぐらいかかるのかもしれない。
企業年金に詳しい永沢徹弁護士は、銀行が免許制なのに対し、投資顧問会社は登録制という甘さがあると指摘する。
「有象無象の会社が入っているのは否定できません。ブラックボックス化している。それを野放しにしていた国の責任はありますね。中小企業の年金基金は(運用の)プロがいないので、専門家に任せてしまう。監視をして、うまく運用するのは難しい面もあると思う」
「国がチェックしてくれないと…」いや、自己責任です
しかし、株式投資と同じで、儲けもあれば損もある自己責任の世界だ。その自覚があれば、運用が難しい時代であることはすぐわかりそうなものである。
元日銀マンの池田健三郎(経済評論家)は語気を強めて次のように言う。
「基本的に投資活動ですから、元本割れは常にある。突き詰めれば自己責任なんです。できる努力はしなければならない。だからお人好しになってはいけないし、任せ放題もダメ。国に頼って検査をしてもらえばいいもダメ。基金の責任者が監視し、情報開示しなければ情報を出させ、怪しかったら切り替えるとかしないと問題は大きくなるばかり」
まさに正論で、このご時世にプラス運用ばかりでマイナスがないなど怪しいと疑ってかかるのが常識のはずなのだ。