温もりある肉親を前に決断迫られる家族…「臓器提供」の苦悩

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   脳死の状態でも家族の同意があれば臓器提供が可能にする改正臓器移植法が施行されて1年半が経過した。この法改正に伴い命のリレーといわれる臓器移植が増えている。しかし同時に、患者本人が意思を明らかでないなかで、まだぬくもりのある肉親の臓器を提供すべきかどうか、家族は重い決断を迫られ悩むケースも増えている。

   「命を繋ぐリレー」とは、臓器を提供された側の視点のようにも思える。提供を決断した家族の中には、脳死を死と割り切れず、提供後にうつになる人もいるという。

本人の意思表示なくても家族の承諾で可能に

   「臓器は海外でなく、自国内で提供されるべきだ」という国際的な声の高まりで、2010年7月に改正された臓器移植法。難病をもつ子どもの親や移植に望みを託して生きる患者にとってこの法改正は福音となった。国谷裕子キャスターの説明によると、改正前の2009年には200件強だった臓器移植が、施行1年後の昨年は329件になった。とくに、脳死状態で臓器提供を受けた移植が改正前の3倍から4倍に増えている。その8割が患者本人の意思表示がなく、家族の決断による臓器提供だ。

   高度な救急医療を行うことで知られる札幌市立札幌病院。クモ膜下出血で入院している男性患者の脳は出血ではれ上がり機能を喪失していた。ある日、家族が集められ医師から脳死状態を告げられた。さらに医師は「この先何ができるかと考えた時に、その一つとして臓器提供があります」と伝えた。オプション提示といわれるものだ。

   脳死になった患者は数日から10日ほどで死を迎えることが多い。家族は限られた時間の中で提供するかどうかの決断を迫られる。倒れる前に看護師をしていたこの患者が、日頃多くの患者を助けたいと話していたことを家族は考え、提供を前向きに検討すると医師に伝えた。

   翌日、臓器移植コーディネーターがやってきて具体的なプロセスを説明した。「脳死判定(2回)という検査があるんですが、2回目の検査が終わった時間がご本人の死亡時刻になります」。脳死判定が下れば、その後すぐ臓器摘出手術へと進む。

   この時、患者の妻が感じたのは、臓器提供を承諾することは夫の死の瞬間を自分たちが決めることに繋がるという違和感だった。夫の命が自然に消えるまで、時間が許す限り最後まで看取る道を選びたい。迷った妻は結局、臓器提供を断った。

   番組で紹介されたもう一つのケースは、最終的に臓器移植を決断した家族だ1昨年秋に脳死となった母親の臓器提供を承諾した長女は、人助けができたという気持ちの一方で、大切な決断にじっくり向き合うことができなかったという後悔が今でも残る。医師から臓器提供の話を聞いた時、次女が記憶していた母の「移植してもいいかな」というつぶやきを手掛かりに提供を承諾した。心臓、肺など母の6つの臓器が患者に送られた。

「最後の最後まで大きな傷跡をつけて送り出してしまったので、よかったのかなと…」

   悩みを感じるたびに移植した患者から送られてきた感謝の手紙を読み返すという。

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