ゲーミフィケーション(gamification)を直訳すると「ゲーム化すること」だそうだ。若者たちが電車の中で夢中になっているゲームの手法を社会のさまざまな動きに取り入れ、モチベーションを上げようという動きだ。
ゲーミフィケーションの広がりを森本健成キャスターが伝えたが、番組を見た感想は、単純なゲーム感覚ではたしてモチベーションを上げて現実社会を変えられるか、お遊びにすぎないのではないかというものだった。
社員が社員を評価して「熱血バッジ」「絆バッジ」贈呈
「ゲームが世界を変えるかもしれない。これを聞いてそんなわけはないだろうと思った人も多いでしょう。しかし、今夜の話を聞けば少しは考えが変わるかもしれません」
森本は力を込める。では、どんなところでこのゲーミフィケーションが活用されているのか。昨年(2012年)12月、大手自動車メーカーが催したイベントの目玉は、若者のクルマ離れを食い止めるために新型車に搭載されたゲーム機能だった。ドライバーが交差点で急ブレーキをかけた途端、前に倒れかかり燃費も悪化して点数が2・6から2・3に下がった。このシステムはドライバーの運転技術を5000点満点で採点するもので、加速の変化や燃費を瞬時にコンピューターが計算して可視化する。参加するドライバー同士が自分の技術がどのくらいかをホームページで順位確認できる。ゲーム感覚で技術が磨けるとあって客が3倍に増えたという。
高齢者のリハビリにも活用されている。椅子から立ち上がったり座ったりすると画面の木がすくすく成長するのが分かる仕組みで、励みになるらしい。
社員の働く意欲を高めるために、人事評価に活用する企業も現れた。飲食店やエステサロンなどの割引サービスを紹介するウエブサイトの運営会社で、創業わずか5年で会員が20万件に達した。原動力はゲーム手法を取り入れた人事評価だという。
熱血バッジ、チームワークに貢献した絆バッジなど15種類の同僚を称えるバッジをつくり、社員同士がお互いの良いところを見つけ合い贈る仕組みだ。考案した社長は「金銭的な報酬よりも、自分がやった行動自体が評価されることに満足を感じる人が多い。そういう時代の流れになってきたのだと思う」という。
いずれも共通しているのは、課題を設定しクリアした人にはポイントなどの報酬を与え、結果を参加者が共有できる交流の場を設けていること。その結果、モチベーションが生まれるのだという。
おカネや出世ではない「働くための目的」
「ゲームの力は大きいですね」と感心する森本に、情報社会論が専門という濱野智史は次のように話す。
「一番すごいところは、人をやる気にさせるところにある。クルマの例だと、自分の現在の運転技術が下手かうまいかを可視化してくれ、学習させてくれることだと思う」
森本「ゲーム化しなければいけない背景には何があるのでしょう」
濱野「日本社会全体が長い不景気にあって、今後も高い成長が望めない。そういう時代に、おカネを稼ぐために仕事をする、出世をするために仕事をするということにやる気が出ないというか、リアリティーが持てない。
仕事をするのは辛い、何かモチベーションを与えるものはないか。そういうなかでゲーミフィケーションが注目されている背景があるのだと思います」
たしかに、運転技術やリハビリなど、課題がはっきり設定できて短期で終了できるものは、ゲーム感覚でモチベーションを維持するのは有効だろう。濱野氏の背景説明も納得できる。
しかし、単純なゲーム感覚の手法で社会を変えられるのかとなると疑問だ。ゲーム感覚の最たる野球でさえ、ダルビッシュ有投手は「日本の野球はフェアでなくなった。モチベーションの上げるのが難しくなった」とメジャー入りを決めた。ゲーム化の手法で一時的にモチベーションを上げ得ても、社会を変えるなどやはり戯言、限界があるように思える。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2012年1月25日放送「ゲームが未来を救う!?~広がるゲーミフィケーション」)