日本人の正義感や人情を描いてきた時代劇が減少の一途を辿っている。42年間にわたり続いたTBS系「水戸黄門」の放送にも終止符が打たれ、今年(2012年)に予定されているテレビ局の連続時代劇はわずか1本となった。
その時代劇制作のメッカ、京都・太秦の東映撮影所では、古き良き日本の姿を再現する技を次の世代に残せなくなるという危機感が広がっているという。制作側の「見るのは高齢者ばかりで、スポンサーがつかずカネがない」という嘆き節が聞こえてくるが、はたしてそうか。嘆く前に作る側が自らが反省する点があるのではないか…。
年間32本もあった連続テレビ番組も今年は1本
日本で時代劇映画が初めて製作されたのはおよそ100年前。以来、映画、テレビの世界で次々と新しいヒーローが登場し人気を得てきた。ところが、民放テレビ局の連続時代劇の本数推移(東映京都労組調べ)を見ると、1972年に32本だったのが、バブルがはじけ平成不況が始まった92年13本、02年10本、そして今年はわずか1本になってしまった。
国谷裕子キャスターはその背景として、「現代劇に比べて制作費用がかかるうえ、時代劇を好んでみるのが高齢者であることから、番組スポンサーに敬遠されがちになっている」ことを挙げた。「鬼平犯科帳」など人気の連続時代劇を制作してきた能村庸一プロデューサーも、90年代に導入された個人視聴率に原因があると次のように言う。
「個人視聴率によって視聴者の年齢層に高齢者が多いことが明らかになった。購買力の旺盛な若者を狙うスポンサーとのミスマッチ。それとおカネなんですよね」
このテレビの連続時代劇激減の結果、京都・太秦の映画村ではこんな現象が起きている。時代劇にあこがれて俳優になった大部屋の若者は、出演依頼がなく、隣接するテーマパークが行う寸劇にアルバイト出演して日銭を稼いでいる。
80年余の歴史のある太秦には、日本古来の美意識を知り尽くし、古き良き時代を蘇らせる専門家集団がいる。庶民とは違う武家の所作や礼儀作法から、時代ごとに変遷する髷の形まで、時代劇には欠かせない知識と経験だ。髷を結いあげる技のエキスパートの大村弘二さんは、「時代や身分によって異なる髷は5年や10年では分からない。10年、20年積み重ねて初めて見えてくるものがある」という。衰退したままでは、その伝統の技を次の世代に継承できなくなると懸念する。