東日本大震災もう一つの被災地・東京で「無力」を歌うミュージシャン

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トーキョードリフター>東日本大震災後の暗く沈む東京の街。人々が家路を急ぐ中、ミュージシャン・前野健太は5月の雨に濡れながら、ギターを手に歌いながら街を歩く。その一夜を記録したドキュメンタリー作品である。監督は『あんにょんキムチ』『ライブテープ』などの松江哲明。

   松江監督はドキュメンタリーの可能性と対峙し、ジャンルの拡張を模索し問い続けてきた。ドキュメンタリー作品はカメラが映した(映った)記録性と編集作業による物語性との兼ね合いが肝であるが、この映画では物語性からの脱却を図っているのが随所に表れており、記録を重視している。

この時代にこの街に希望はあるのか

   『ライブテープ』のような「仕掛け」もなく、シンプルなドキュメンタリーと言える。この映画の中で記録とは計画停電、節電によりネオンが消えた東京の街である。その街で放射性物質の恐怖を感じながら雨を浴び、ギターを弾き、歌う前野健太健太の姿に、被災地の人々に何かをしたくても、テレビの前で無力を感じることしかできなかった自分を思い出すだろう。

   前野健太を見ていると、東北に行きカメラを向けるばかりがドキュメンタリーではないことを痛感する。東京に住んでいる人の生活が、東北の原子力発電所のリスクの上に成り立っていること、そして東京も被災地であることを浮き彫りにしていく。時間とともに薄れていく記憶を失わないためにも、本作の「記録」の意味は大きい。

   不思議なのは、暗い東京の街を松江監督が肯定しているように見えることだ。なぜだろうと考えながら、前野健太の歌と共に72分は過ぎてしまった。暗く沈む街に微かに見える希望とは何なのか。未だ不安がつきまとう東京で暮らす者にとって、足下を見直すヒントがこの作品には含まれている。(ユーロスペース、川崎市アートセンターにて公開中、他全国順次公開)

川端龍介

お勧め度☆☆☆☆

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