韓国で成績を上げるため体罰を加えていた母親が息子に殺される事件があった。背景にあるのは、人生の一発勝負になっている過熱受験事情だ。事件があったのはソウル市内のマンション。別居中の父親が先月(2011年11月)このマンションを訪れ、部屋に母親の遺体があるのを発見した。
「努力足りない」とゴルフクラブで殴打10時間
殺人容疑で逮捕された18歳の高校3年生の息子は、取り調べに対し、殺害したのは今年3月で、いい成績をあげろというプレッシャーから模擬試験の成績を偽造したが、次の日に学校面談が予定されていて、発覚を恐れて寝ていた母親を刺したという。母親の遺体は、発見されるまで8か月間放置されたいたわけだが、腐敗し悪臭が漂い始めると工業用ボンドで部屋の隙間を埋めていたと話している。
息子は警察に逮捕される直前、父親にこう訴えたという。「息子は私の手を取ってブルブル震えながら、『何があっても絶対に僕のことを捨てないで』と懇願していた」
警察の調べに、息子は「全国トップの成績を取るよう母親に言われ、10時間にわたって説教や体罰を受けていた」と話している。父親によると、母親の体罰は小さい時から行われていたらしい。
「勉強のことでというより、言うことを聞かないと、『努力が足りない』と言って叩いていたが、私がいたのでひどく叩くことはなかった」
夫婦が別居し、母親と中学1年になった息子の2人暮らしになった5年前から、成績に厳しくなり、体罰もゴルフクラブで殴るなど激しくなったという。
人生の一発勝負―国中から「超狭き門」に殺到
息子への過度な期待が体罰となったのだろうが、過熱する韓国の受験事情も無関係ではなさそう。韓国の社会事情を研究する静岡県立大国際関係学部の小針進教授は背景として3つの理由を挙げる。1つは小学校から高校入学まで受験がないこと。「そのために、逆に小学校の時から目標の大学入試に全部向かってしまい、どんどん過熱している」という。
2つ目は一流大学を出ていないと就職が非常に厳しいこと。「韓国では大学卒の就職率は5割いくかいかないぐらい」。3つめは韓国で一流大学といわれるのはSKY、つまり国立ソウル大、私立のコリョ(高麗)大とヨンセイ(延世)大で数が少ないこと。そんな中で、世界への躍進が著しい一流企業はごく一部で、日本に比べ中小企業の層が薄い。一流大学を出ないと就職が難しく、大学受験が人生の一発勝負になっている。
日本ではどうか。リーダー不在の政官財のなかで、日本のエリート主義、学閥主義が徐々に変化しているようにも見受けられるが、親の期待が別な形で出てきている傾向があると精神科医の香山リカが次のように語った。
「高度成長時代に教育熱が高まり、受験ノイローゼになって私のところへも親子が相談に来た時代があった。その後、経済の悪化でいい大学へ入学するだけが幸せじゃないと学習していきました。ただ、最近は小学校の時からスポーツ選手にしたい、子役にしたいとかで厳しくする親がいて、相談に来る件数が増えている」