<家族の庭>初老の夫婦トムとジェリーは、それぞれに打ち込める仕事を持ち、休日には農園で野菜作りに励み、収穫した野菜で料理を作ってワインと共に楽しむ。友人に慕われ、一人息子も立派に独立。まさに人生の実りの秋を迎えた幸せな生活を送っていた。しかし、彼らの家をしばしば訪れるトムの友人ケンやジェリーの同僚メアリーは、中年になってもいまだ独身で、それぞれに孤独を抱えていた。
邦題は「家族の庭」だが、原題は「Another Year」。邦題にひかれて、どんなハートウォーミングな作品なのかと思って観たら、期待を裏切られるので要注意。話のメインはつつましくも幸せな夫婦トムとジェリーだが、物語の真の主人公はメアリーなのだ。
とんでもない男に向こう見ずなアプローチ
経済的に自立し、服とメイクで年(50歳前後と思われる)より若い美貌を保ち、持ち前の明るさで人からも好かれ、一見幸せそうなメアリーだが、男運に恵まれず、孤独をごまかすためにタバコとワインが手放せない。年齢的にもやすやすと他人には甘えられず、この年齢まできたらとパートナー選びにも妥協を許さないプライドの高さがまた婚期を遅らせる。本当は弱いところをたくさん抱えているから、トムとジェリーの優しさに触れるたびに虚勢はもろく崩れ、ますます孤独感を強めていく。そんなある日、彼女は何を血迷ったのか、とんでもない男性に猛烈なアプローチをしてしまう。
宣伝文句に「(ジェリーとメアリー)どちらの人生も意味のあるものだということを、本作は静かに教えてくれる」とあるのだが、ここまで痛々しい独身中年女性の現実をわざわざ映画にする必要があるのだろうかと、見ていて辛くなってしまった。人生の一発逆転を期待してしまうが、向こう見ずで自意識過剰の独身女性に待ちかまえている結末は、あまりにも現実的。ラストシーンはこれでもかと観客を打ちのめさんばかりに衝撃的だ。独身女性の心をグサリとえぐる。これからの生き方を考えさせられる苦味のきいた佳作だ。
バード
おススメ度:☆☆☆