小松左京、原爆と震災で痛感「科学技術は災害も引き起こす。未来拓くのは想像力」

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   この7月に80歳で亡くなったSF作家の小松左京は、500近い作品を残した。全てが類い稀な想像力の産物だ。その一つひとつに21世紀を見通す目がある。「想像力こそが未来を拓く」という信念の結晶である。彼が残したメッセージから、未来を読み解くヒントを探る。

阪神大震災で高名な専門学者に絶望

   50年前の「復活の日」は地球規模の感染症の話だ。キャスターの森本健成は「中学時代に読んだとき、実際には起るはずがないと思ったが、いま現実になっている」という。「首都消失」はライフラインが失われた時の東京の話だ。一極集中への警鐘でもある。「空中都市008」は中央電子脳・ウイルスの話だが、まだコンピューターがここまで普及していない40年前の作品だ。

   代表作「日本沈没」は2巻で430万 部のベストセラーだが、完成までに9年を要している。大規模な地殻変動に見舞われた日本はどうなるか。人々は何を考え、どう生きるかを問いかけた。執筆は壮絶な闘いだった。小松左京事務所の乙部順子さんは、「小説は一種のシミュレーション。日本列島を沈めないといけないのだから大変だった」という。地球物理学を駆使して、総エネルギー量はどうか、沈み込みのスピードは、海溝の深さは、さらには生物にとって移動とは何かまで、想像と検証、 また想像の繰り返しだったという。

   86年に、はるかな未来を描く壮大なテーマの「虚無回廊」で想像力の限界に挑む。自らを重ねる老科学者が宇宙への旅に出る物語だった。この頃、苦悩する小松を多くの人が見た。「魂のがん」「いても立ってもいられない。問うても答えのない問題に取り付かれて」と書く。しかし、作品が完結することはなかった。以後、小松は家に閉じこもった。

   再び立ち上がるのは95年の阪神淡路大震災だ。64歳になっていた。もろくも崩れた高速道路に「なぜ予測できなかったのか」と問い、新聞でルポを連載する。「揺れはどう伝わった」「被害はなぜ大きくなった」。乙部さんによると、全貌を記録して未来に役立てたいという「歴史を未来へ」だったという。「未来は突然やっては来ない。過去の積み重ねで未来ができる。ちゃんと記録しておかないと未来が学べないといっていた」

   高名な学者に、高速道路がなぜ倒れたかを共同で検証したいと申し入れたが、学者は「地震が予測をはるかに超えていただけ。私たちに責任はない」といった。信じられない答えだった。小松は心労から精神のバランスを崩すようになった。

   SF作家の石川喬司氏は「彼の心が潰された。信じてきた人間の基本を壊されたのではないか」という。また、やはりSF作家の瀬名秀明氏は「(学者は)いま科学ではここまでしかいえないという意味だったろう。しかし、小松さんは『その前に人間だろう』といいたかったんだと思う」という。

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