<マネーボール>2002年。金欠弱小球団であったアスレチックスは、選手を育成しても資金力のあるチームに選手を引き抜かれてしまう悪循環に陥っていた。その危機にチームのGM(ジェネェラル・マネージャー)であったビリー・ビーンが打開策として用いたのが「マネーボール理論」。「出塁率」に目を付け、選手ごとに統計をとり、他球団の能力はあるのに過小評価され、年俸が安く選手生命の崖っぷちに立たされている選手をかき集め、彼らの潜在能力を信じるというものであった。
マイケル・ルイス著のベストセラー『マネーボール 奇跡のチームをつくった男』が原作で、脚本は『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキン、監督は『カポーティ』のベネット・ミラー、独自の理論から異端児扱いされるビリーをブラッド・ピットが演じた。
経営理論導入して快進撃続けるアスレチックス
弱小球団が科学的根拠を信じて快進撃を続けるという成り行きが、説得力ある構成力でスペクタクルになった。「経営」や「マネジメント」というとっつきにくい要素を解かり易く描き、予備知識がなくても楽しめるエンターテイメント作品に仕立て上げたのは見事だ。ここらあたりは日本のヒット「もしドラ」と共通する。
テーマの「経営」に「人間臭さ」をさりげなく描いているところはうまい。ビリーは学生時代は天才と謳われていたが、短気な性格からプロでまったく通用しなかったエピソードなどが絶妙のタイミングで挿入され、エンターテイメントとしての濃度を高めている。
主演のブラッド・ピットも独特のコメディ・センスを巧く生かし、キャリアの円熟味を感じさせてくれる。ブラッド・ピットは主演作品の中でも傑出した好演ではないだろうか。来年のオスカー受賞も十分あり得るだろう。人間は長所があり、短所がある。誰にも評価されないのは、誰にも長所を発見されていないだけなのだろう――と、ビリーは教えてくれる。是非とも人の上に立つビジネスマンに見てもらいたい。自信を持ってオススメできる傑作である。(配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)
川端龍介
おススメ度☆☆☆☆