野田首相は10日(2011年11月)、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加についての記者会見を延期した。前日の民主党の作業部会が賛否真っ二つで、「慎重な判断を」と提言したのを受けてのことらしい。クローズアップ現代も「決断の衝撃」という当初のタイトルを変更して、推進論、慎重論を並べることになった。
もともと交渉の全体像もわからないうちに、「アメリカの戦略だ」「日本は終わりだ」みたいな農協の反対ばかりが伝えられて、とても冷静な議論にならない。といって政府からは何ら具体的な情報は出てこない。
オバマに尻叩かれにわかに大騒ぎ
TPPは、太平洋をとりまくアメリカ、南米、大洋州、東南アジアの9か国が、自由貿易の枠組 みを作ろうという試みだ。関税を10年でゼロにするほか、金融サービス、労働、知的財産権など21の分野で共通のルール作りを目指す。来年から本交渉に入るという話である。日本が加われば10番目になる。
面白いのは、TPPを最初に国会に持ち出したのは、まだ野党時代の野田首相だった。日本の経済力の相対的低下への危機感から、2008年11月に「TPP交渉をどう考えるか。戦略を立てよ」と政府に迫った。TPPがテコになるとの主旨だった。その後まったく話題にならなかったが、昨年12月に菅首相が突然これに言及。さらに今年9月、オバマ大統領が野田首相に交渉参加を促したことで、にわかに大騒ぎになった。今週12日にハワイで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の場が回答期限というわけだ。
TPPを主導するアメリカにはむろん戦略がある。オバマ大統領は輸出倍増が公約で、日本が加われば大きなインパクトになる。また、軍事・経済で力をつけている中国へのけん制にもなる。先に韓国と結んだFTA(自由貿易協定)は、日本を引き込むテコになった。