うつ病を治す向精神薬が逆に自殺の引き金になることが少なくないのに、大量に処方する精神科医の怖い話。東京・墨田区の救急救命センター「墨東病院」。40代の女性が向精神薬を大量に飲み急性薬物中毒で搬送された。
搬送した救急救命士が医師に示したのは、大量の空になった薬の容器。50錠分もあったハルシオンなど3種類の睡眠薬や抗てんかん薬、抗不安薬の空の容器が台所に置いてあったという。女性は一命を取りとめたが、墨東病院には向精神薬による薬物中毒患者が一晩に2~3人も搬送されてくるという。
1100錠の向精神薬渡されひと晩で500錠
女性の担当だった墨東病院の濱邊祐一医師は、「必要があって出されたと思うが、精神科のほうで薬を出されると、患者が過量服用する可能性があることも常に念頭に置いてほしい。極端な言い方をすれば、医師がそういう状態をつくりだしていると言えなくはない」と警鐘を鳴らす。
東京都監察医務院が2006年~10年までの死亡原因が分からない異常死1万3499件について行政解剖を行い調査したところ、覚せい剤による死亡が136件だったのに対し、医薬品による死亡が25倍の3339件もあった。
このうち08年から09年にかけて急増しているのが向精神薬による死亡。10年には睡眠薬によるものが306件、精神神経薬が303件にのぼっている。
福永龍繁院長は「覚せい剤はむしろ減少傾向にあるのに、医師が処方する薬がずいぶん死に関与していることに驚きましたね」という。
2年半前にはこんな例もあった。女性は通院していた病院から1100錠の向精神薬を処方され、その日の晩に500錠を服用して死に至ったケースだ。初診の病院の判断は、職場のストレスからくるうつ病で、父親によると最初は3種類の薬を処方されたが、そのうちに10種類の半端でない量に増え、薬が切れるとイライラしてくる状態になったという。服用した500錠の中の4種類の注意書きには、「自殺企図が現われることがある」と書かれていた。