「私はグリ森犯じゃない」黒川博行と週刊現代どっちに説得力?
さて、順調に部数を伸ばしてきた「週刊現代」に大問題が起きている。ノンフィクション・ライターの岩瀬達哉が、すでに時効になったグリコ森永事件を取材して連載した「21面相は生きている」の中で、仮名になっているが犯人と断定されたと、作家の黒川博行が怒って各誌に手記を発表している。先週の文春が詳しいので、引用しながら経過を記そう。
かつて黒川は、デビュー作の中で書いた脅迫状の文面や身代金の受け渡し方法がグリ森事件と酷似していたことで、兵庫県警に事情を聞かれたことがある。しかし、それ以上追及されることはなかった。今回、岩瀬と編集者から話を聞きたいと連絡があり、都合3回取材されたそうである。
岩瀬が黒川を真犯人だと疑う根拠は、犯人とされる人間と身長・年齢が黒川と合致、犯行に使用されたクルマと似た車に乗っていた、当時も親類がメッキ工場をやっていて容易に青酸ソーダを入手できた、脅迫テープに言語障害を持つ子供の声が録音されているが、黒川の妹の息子にも言語障害がある、犯行現場に土地勘があるなどである。
だが、黒川は妹に言語障害の息子はいない、土地勘はない、青酸ソーダを入手できるメッキ工場は親族が経営しているが、事件当時はプレス工場だったと、明らかに3点は間違いだと主張している。岩瀬と現代に対して抗議したが、誠意ある回答はないと憤る。
私は岩瀬というライターを知っているが、地道に取材をする優れた書き手である。年金問題を暴いたことでも有名で、彼が単なる思いこみで書くとは思いにくい。黒川が問題にしているのは最終回とその前の号である。もう1度読んでみた。仮名にしてあり、その男が作家ということにも触れていない。もちろん住所も特定していないし、ほとんどの読者にはこの人物が黒川であることはわからないように配慮はしてある。黒川の怒りはわかるが、よほど彼について知っている人間でないと、この人物が黒川だと特定はできないのではないか。
だが取材はどうかというと、一番肝心の「彼の妹の息子が障害児」という重大な事実を確認していないようだ。黒川ははっきりそうではないと断言しているのだから、うかつというだけではすまされない。それに、最終回のタイトルは「スクープ直撃!あなたが『21面相』だ」となっているのだ。この人物が、たとえ少数でも黒川だと特定できるとすれば、プライバシー侵害は成立するのではないか。その際は、この断定的なタイトルが現代側にはマイナスになるだろう。今週号の現代で、岩瀬側はどんな反論をするのか期待して読んでみたが、1行も触れていない。